武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

『貸本マンガRETURNS 』貸本マンガ史研究会 編・著 (発行ポプラ社2006/03)


 今日は貸本屋シリーズの最終回、子どもの頃身近に体験した<貸本マンガ>の時代について。このジャンルを丹念に調べている「貸本マンガ史研究会」というグループがまとめた一冊にたどりついた。全編、貸本マンガへのノスタルジーと愛着に満ちた素晴らしい本を紹介しよう。
 序章と1章は、戦後に華やかに全国展開した貸本マンガについての総論、その記述によれば意外にも貸本マンガの最盛期は10年足らず、前後の発展期と終息期を合わせても、20年足らずの短命な現象だったことを知り、青少年期の一時期を重ねることができた 幸運に、思わず感謝したくなった。また、貸本マンガの読者層となって支えた、若い団塊の世代青春の影があったことにも気づき、この国の高度成長をさせた裏面史を思いをはせた。劇画のエネルギーは、高度成長を生産現場で支えた若者たちの屈折した青春にリンクしていたという指摘には感心した。
 第2章からは、貸本マンガの世界を築いた作家と作品のジャンル別各論、第2章は、大ヒットとなった時代劇マンガの世界、つげ義春白土三平平田弘史小島剛夕らの名作と作品論とと作家論、なんとも懐かしい。
 第3章は、劇画ブームののピークを築いたミステリーとハードボイルドの世界、多彩な才能と貸本向け中小出版社が入り乱れたダイナミックな時代の様子が描きだされており、知らなかったことも多く、とても参考になった。この時代の熱いエネルギーのようなものが、その後の劇画発展の土壌になったのだろう。第4章の少女マンガの世界でも、後に華やかに展開する女性向けコミックへの胎動が、既にこのころの貸本マンガの中にあったことがよくわかる。
 第4章の怪奇マンガ、第5章の青春マンガ、いずれもマンガ表現の世界を広げ、多くの読者をひきつけた作品と作家論が充実しており、貸本マンガの世界が、その後のこの国のマンガ文化の発展に大きく寄与したことを明らかにしてくれている。
 全体として、図版も多く、17本のコラムも小さいながら重要なテーマを論じて充実しており、一つの時代を形成した文化現象を見事にとらえ、よくまとまっている。後の資料編も、この分野で調べ物をするさいに必要となりそうなデータがそろっており、親切な構成になっている。
 あえて欲を言えば、各論の一つとしてギャクマンガ、ユーモアマンガの世界を加えてもらえるともっとバランスが良くなったかなと思ったが、これは無い物ねだり。
 最後に、本書の目次を引用しておこう。

はじめに
序章 貸本マンガの豊かな世界―戦後の貸本業界と貸本マンガ
  1貸本屋という「世界」/2貸本マンガ略史/3貸本屋の衰退<コラム>01貸本マンガの原点「赤本マンガ」?/02出版社による「サービス」の実態/03全国貸本組合連合会とは?
1章 ヒロー現わる!―時代劇マンガの世界
  1紙芝居と貸本マンガと/2生活者の視点―つげ義春の場合/3革命とリアリズム―白土三平の場合/4無秩序と残酷性―平田弘史の場合/5女性読者とセンチメンタリズム―小島剛夕の場合<コラム>04貸本マンガの原点「赤本マンガ」?/05映画と貸本マンガ/06紙芝居から来たマンガ家たち
2章 ミステリ、ハードボイルドの誘惑―探偵ものからアクションまで
  1戦後の大衆文化と貸本探偵マンガ/2『影』の誕生とその影響/3短編誌、百花擦乱!/4ハードボイルドマンガと悪書追放/5アクションマンガの流行<コラム>07漫画工房の誕生と崩壊/08貸本マンガの原点「赤本マンガ」?/09貸本マンガの造本/10貸本マンガの「読者のページ」
3章 少女たちの夢のゆくえ―少女マンガの世界
  1母と娘の相克―母子ものを中心に/2都市的なもの、農村的なもの/3脱「泣かせ」と劇画ブーム/4「貧乏・病・戦争」はいかに描かれたのか/5少女ロマンの実相/6黄金の六〇年代<コラム>11貸本少女マンガの表紙の変遷/12マンガ家と読書をむすぶもの/13描き版たは?  
4章 異世界への誘い―怪奇マンガの世界
  1鬼太郎・三平・悪魔くん/2恐怖の系譜/3徳南晴一郎楳図かずおの世界/4怪奇マンガの爛熟と衰退/5ふたたび「水木世界」へ<コラム>14半裁マンガとは?/15貸本SFマンガの世界
5章 青春って何だ―貸本マンガの終焉と青春マンガ
  1時代に翻弄される青春群像―『忍者武芸帳』と『黒ぃ傷痕の男』/2わかものへのまなざし―青春マンガの登場/3人生論としての青春―大長編青春劇画『あぁ青春』/4繊細さと明るさと―『青春』のみやわき心太郎と下元克己/5記憶に残る青春マンガ/6少女たちの青春―永島慎二つげ義春<コラム>16「悪書」とはなにか?/17貸本マンガの流通過程
終章 貸本マンガに溺れて<コラム>18貸本マンガ家たちの死
【資料編】貸本マンガ関係年表/貸本マンガ家リスト1000十α/主要貸本マンガ出版社リスト
あとがき/主な参考文献と資料

 これで、今回の<貸本屋シリーズ3回>を終了します。