武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

『現代漫画博物館』小学館漫画賞事務局・竹内オサム著(発行小学館06/11/20)


 この国のマンガ文化史をどのように組み立てるか、長い間マンガに親しんできた者にとっては、これはとても興味のあるテーマ、この本は、そんなテーマに思いきって取り組んだ勇気ある挑戦の一つめ。ジャンル別ではなくマンガの総合的発達史を目指したところがこの本の特徴。大変な目配りを必要とする取組み、勇気あると評した所以。
 この本では、<現代マンガ>を戦後の1945年以降と区切りをつけ、きっぱりと戦前のマンガを切り捨てたところが、特徴の一つ。
 1945年から2005年までの50年間を大きく5段階に区分、<出発><三段階の成長過程><成熟期><新時代>と、すでに成熟期を通過しおえたジャンルの成長の物語としてとらえようとしていること、これが特徴の二つめ。専門的にみるといろいろ議論があるだろうが、素人の一愛好者にすぎない私から見ると、この時代区分には、なるほどと納得させられる点が多く参考になった。
 かつてのアメリカのジャズが100年ほどの幅で成長しきったように、この国の戦後漫画も、すでにある種の成長のピークを過ぎてしまっているのかもしれないと思うと、納得する気持ちと寂しい気持ちがせめぎ合う。
 読み物としてこの本が楽しめるかどうかについて。1章から4章までの実質的な歴史回顧部分では、章のはじめにカラー口絵があり懐かしい画像がふんだんに見つかり、思わず見入ってしまった。カラフルなノスタルジーに導かれて、楽しかった過去が甦り思わず嬉しくなった。この口絵部分が素晴らしい。
 レイアウトの基本は一作品にページの半分を取り、その半分を作品の画像、残り半分を見出しと作品解説にあてたので、全体の文字数は三分の一程度だろうか、見て楽しむビジュアル重視の作りになっている。私にはこの作り方が楽しかった。原作1ページ分の画像を見ていると、一気に発表誌を食い入るように読んでいた昔のことを思い出した。強い思い出が甦ってくると、時代区分などどうでもよくなり懐かしさで息苦しくなる。
 時代区分による漫画史の記述は5章までで、第6章は本書の編纂に参加したメンバーによるよく整理してまとめられた戦後漫画史、貸本、少年誌、少女誌、学年誌、青年誌など広範な分野をよく整理してあり、概論としてよくできている。これはこれで勉強になり読む価値がある。
 別冊としてついている付録には中途半端なものを感じた。人名事典は詳細なものが2作すでに出ているし、漫画史年表は簡単すぎる。各漫画賞受賞作品一覧など本書を作る上で参考にしたデータにすぎないのではないか。私にはいらずもがなの付録にしか思えなかった。ここにコストをかけるのなら、本体の方のカラー口絵をさらに充実してほしかったという気がした。
 最後に、本書の目次を引用しておこう。

第1章 1945〜1958 戦後漫画の出発―赤本漫画と月刊誌の時代
第2章 1959〜1969 少年・少女週刊誌と青年誌の誕生―漫画の高度成長
第3章 1970〜1980 表現の進化と多様性―漫画の革新と成長
第4章 1981〜2000 コミックマーケットの成長と成熟―巨大化と国際化の時代
第5章 2000〜2005 新しい時代を目指して―2001〜2005年
第6章 現代漫画史概論(現代漫画史概論/少女・女性漫画史概論)
〈別冊・資料編〉
各漫画賞受賞作品一覧/作家人名事典(作家索引)/現代漫画史年表

 これは一種の戦後漫画の図鑑のようなもの、収められている貴重な画像がこの本の価値の半分以上を占めている。そこに投資してもいいなら、本書を買って損はない。
 なお、戦後マンガ史を語るとき、忘れてならないのが今は亡きコミックマーケット代表米沢嘉博さんの戦後マンガ史三部作「戦後少女マンガ史」「戦後SFマンガ史」「戦後ギャクマンガ史」。いつか機会をみてこの三部作も取り上げてみたい。