武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 日本学術会議の会長談話・・・「ホメオパシー」について

民主党の代表選挙が白熱してきているが、そのことにはあまり興味がない。それよりも、民主党政権になって<統合医療>ということを話題にする首相がでてきたりして、何となく<代替医療>を評価するような姿勢がチラホラするのが気になっていた。政治が介入するテーマではないような気がしていたからである。
そんな折も折、代表的な<代替医療>の一つ「ホメオパシー」について、日本学術会議の会長談話の形でホメオパシーをほぼ全面否定する内容の記事がニュースとして流れた。非常に興味ある内容だったので以下に会長談話そのものを全文引用しておきたい。

ホメオパシー」についての会長談話
ホメオパシーはドイツ人医師ハーネマン(1755 - 1843年)が始めたもので、レメディー(治療薬)と呼ばれる「ある種の水」を含ませた砂糖玉があらゆる病気を治療できると称するものです。近代的な医薬品や安全な外科手術が開発される以前の、民間医療や伝統医療しかなかった時代に欧米各国において「副作用がない治療法」として広がったのですが、米国では1910年のフレクスナー報告に基づいて黎明期にあった西欧医学を基本に据え、科学的な事実を重視する医療改革を行う中で医学教育からホメオパシーを排除し、現在の質の高い医療が実現しました。
こうした過去の歴史を知ってか知らずか、最近の日本ではこれまでほとんど表に出ることがなかったホメオパシーが医療関係者の間で急速に広がり、ホメオパシー施療者養成学校までができています。このことに対しては強い戸惑いを感じざるを得ません。
その理由は「科学の無視」です。レメディーとは、植物、動物組織、鉱物などを水で100倍希釈して振盪しんとうする作業を10数回から30回程度繰り返して作った水を、砂糖玉に浸み込ませたものです。希釈操作を30回繰り返した場合、もともと存在した物質の濃度は10の60乗倍希釈されることになります。こんな極端な希釈を行えば、水の中に元の物質が含まれないことは誰もが理解できることです。「ただの水」ですから「副作用がない」ことはもちろんですが、治療効果もあるはずがありません。
物質が存在しないのに治療効果があると称することの矛盾に対しては、「水が、かつて物質が存在したという記憶を持っているため」と説明しています。当然ながらこの主張には科学的な根拠がなく、荒唐無稽としか言いようがありません。
過去には「ホメオパシーに治療効果がある」と主張する論文が出されたことがあります。しかし、その後の検証によりこれらの論文は誤りで、その効果はプラセボ(偽薬)と同じ、すなわち心理的な効果であり、治療としての有効性がないことが科学的に証明されています1。英国下院科学技術委員会も同様に徹底した検証の結果ホメオパシーの治療効果を否定しています2。
「幼児や動物にも効くのだからプラセボではない」という主張もありますが、効果を判定するのは人間であり、「効くはずだ」という先入観が判断を誤らせてプラセボ効果を生み出します。
プラセボであっても効くのだから治療になる」とも主張されていますが、ホメオパシーに頼ることによって、確実で有効な治療を受ける機会を逸する可能性があることが大きな問題であり、時には命にかかわる事態も起こりかねません3。こうした理由で、例えプラセボとしても、医療関係者がホメオパシーを治療に使用することは認められません。
ホメオパシーは現在もヨーロッパを始め多くの国に広がっています。これらの国ではホメオパシーが非科学的であることを知りつつ、多くの人が信じているために、直ちにこれを医療現場から排除し、あるいは医療保険の適用を解除することが困難な状況にあります4。またホメオパシーを一旦排除した米国でも、自然回帰志向の中で再びこれを信じる人が増えているようです。
日本ではホメオパシーを信じる人はそれほど多くないのですが、今のうちに医療・歯科医療・獣医療現場からこれを排除する努力が行われなければ「自然に近い安全で有効な治療」という誤解が広がり、欧米と同様の深刻な事態に陥ることが懸念されます。そしてすべての関係者はホメオパシーのような非科学を排除して正しい科学を広める役割を果たさなくてはなりません。
最後にもう一度申しますが、ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です。このことを多くの方にぜひご理解いただきたいと思います。
平成22年8月24日日本学術会議会長 金澤一郎

この会長談話に対して、日本統合医療学会は、理事長見解として以下のような見解を発表した。この見解も非常に興味深いので全文引用させていただこう。<代替医療>と<西洋医学>の両方があってこその<統合医療>なので当然の反応だろう。

日本統合医療学会会員各位
昨日(8 月25 日)の朝日新聞(朝刊)に、“ホメオパシー”に対する日本学術会議の見解が述べられ、大きな話題となっています。この新聞報道は、ホメオパシーの“或る団体”の不正事件を大きく取り上げたものであり、更には発表された「日本学術会議会長談話」には実態と異なる内容が含まれており、結果として誤解を生む内容となっています。そこで、日本統合医療学会として、
1)日本学術会議に、早急(9 月中旬)に、公開討論会の開催を呼びかける。その場に於いて、ホメオパシーに関する国の内外の実態を明らかにすると共に、統合医療の立場を明確にする。
2)関係諸団体に対して、統合医療の立場を明確に伝えるよう努力する。
統合医療理事長の見解
A)ホメオパシーについて
アメリ国立衛生研究所(NIH)では、ホメオパシー代替医療の分野として、調査研究の対象となっており、当学会でも同意見である。
②諸外国に於いては、ホメオパシーの有効性の報告が多くあり、ホメオパシーは研究の対象であると考えられている。
③今回、問題となった「ホメオパシーの療法」は、助産師の職権を逸脱した医療行為であり、しかも、独断で正当な医療を排除したとすれば、それは正に犯罪行為であり、処罰されるべきである。今後、この様な問題の発生を防止する為、国家は厳しい規制を考える必要がある。
B)統合医療および代替医療について
①医療としては、科学的エビデンスのある近代西洋医学を中心に進めるべきであり、代替医療は、それを補うものとして利用すべきである。がんの末期や難病など、現在の近代西洋医学が治療不可能なものに対しては、患者とのコンセンサスの下に代替医療の利用を検討する必要があると考えている。最後まで患者を見捨てない患者中心の医療が統合医療である。
②各種の代替医療について、安全性、有効性、さらに経済性の3 点について調査研究する必要があり、適切なものは利用を推進し、不適切なものについては、国家としてガイドラインを設け、規制すべきである。
代替医療には現時点で安全かつ有効で利用すべきものが多く存在する。今回のような不適切なホメオパシーの団体の不適切な使用の事件により、安全で有効な代替医療が否定されることがないようにしたい。
一般社団法人日本統合医療学会 理事長渥美和彦

さらにこれらの動きに対して「日本ホメオパシー医学協会」のサイトでは、日本学術会議の会長談話に全面的に反論する記事がアップされている。かなりの長文なので興味のある方は、以下のサイトにアクセスして直接確かめてもらいたい。
http://jphma.org/About_homoe/jphma_answer_20100828.html
どんな決着をみるか、科学的ならざる話題がさかんにメディアを騒がすようになってきた昨今、命と健康に直接かかわることなので、注意して推移を見守っていきたい。

朝日新聞のサイトasahi.comの中の小部屋にアピタルがあり、そこでは医療関係の情報を取り扱っている。そのアピタルにこの間のホメオパシー関連ニュースが一覧になってまとまっている。興味のある方は以下のURLをどうぞ。相当にあやしげな代替医療の世界をどこまで掘り起こせるか興味深い。
http://www.asahi.com/health/feature/