武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『反原発運動マップ』 反原発運動全国連絡会編 (発行緑風出版1997/10/13)


今日のニュースで、東京電力の清水社長に対して、佐藤福島県知事が「現時点では再稼働はありえない」と、怒りも露わに吐き捨てるように言った場面が非常に印象的だった。最悪の事故という形で原発のリスクに直面している現地の人々の切実な声であろう。
原発運動の実態が知りたくて本書を手にとった。1部の現地からの報告が、三分の二以上を占め充実している。原発誘致計画を白紙撤回した地域の報告も収録されており、少し古いが大変参考になる。あらゆる反対運動は、計画段階で止めるのがベスト、建設が始まってしまうと八ッ場ダムみたいに非常に困難になってしまうことがよく分かる。
最後に、資料として付いている<本書中に登場する反原発脱原発グループの連絡先一覧>を見て、やっぱりそうか、と思ったことがある。私が住む埼玉県をはじめとする原発のない県には、原発に反対する市民運動もまた存在しないということだ。
放射能のリスクを押しつけられた過疎地域の住民だけが、困難な反対運動を背負わされるという、運動面においても環境的な不平等がこの問題に横たわっていることに気付かされた。
都道府県別に、原発を問題にするグループが記載されていない県をピックアップすると、以下のようになった。もちろんこれらは原発がない県。
[山形/栃木/群馬/埼玉/千葉/神奈川/山梨/長野/富山/滋賀/奈良/香川/徳島/熊本/沖縄]
今まで、原発関連の放射能問題を、自分の生活環境の切実なリスクとして実感する機会がなかった地域といっていいだろう。これらの地域に住んでいる人には、本書を是非お勧めしておきたいと思う。
本書の内容は、大きく分けて1部が、原発に関連のある各地からの報告。執筆者が各地の運動に関わってこられたメンバーが中心なので、地域の特性と、それぞれの原発が持つ固有の問題が具体的に記述されており、情報として貴重である。
2部は、地域の枠を超える課題や運動を、テーマ別に報告してあり、広い視野の中でこの問題を捉え返す参考になる。
10年以上前のいささか古い書籍ではあるが、類書がほかに見あたらないので、原発問題を運動論の視点から見てみたい人にはお勧め。
以下に目次を引用しておこう。

1部 現地からの報告
 北海道電力管内
 東北電力管内
 中部電力管内
 北陸電力管内
 関西電力管内
 中国電力管内
 九州電力管内
2部 脱原発運動の広がり
 原発賛成反対の立場を超えて
 脱原発国際連帯
 放射能汚染を見つめ続けて
 地域と職場に根ざして
 放射能を見張るネットワーク
 原子力関係裁判の意義
 脱原発株主運動
 安全食品連絡会の原発へのとりくみ
 阪神大震災原発
 高圧送電線の反対運動
 議会と運動のかかわり
 あなたのまちが「現地」
 【図説】脱原発に向かう世界
資料
 反原発運動全国連絡会について
 本書中に登場する反原発脱原発グループの連絡先一覧
 用語解説索引