武蔵野日和下駄

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 放射線管理区域と福島県の子ども達


福島第1原発事故が起きるまで<放射線管理区域>という語彙があることすら気にしていなかった。ところが事故に由来する放射性物質による汚染の広がりを見て、どうしても意識せざるを得なくなったので調べてみた。
Wikipediaによれば「人が放射線の不必要な被ばくを防ぐため、放射線量が一定以上ある場所を明確に区域し人の不必要な立ち入りを防止するために設けられる区域」とある。明解な定義であり、意味するところは非常に怖い。
放射線管理区域を規定する法的根拠は次の4つ。
1,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律による基準

1.外部放射線に係る線量については、実効線量が3月あたり1.3mSv
2.空気中の放射性物質の濃度については、3月についての平均濃度が空気中濃度限度の1/10
3.放射性物質によって汚染される物の表面の放射性物質の密度については、表面汚染密度(α線を放出するもの:4Bq/cm2、α線を放出しないもの:40Bq/cm2)の10分の1
4.外部放射線による外部被ばくと空気中の放射性物質の吸入による内部被ばくが複合するおそれのある場合は、線量と放射能濃度のそれぞれの基準値に対する比の和が1

2,医療法令による基準

1.外部放射線の線量が1週間につき1センチメートル線量当量 (H 1cm) として300μSvを超えるか、もしくは超えるおそれのある場所
2.空気中の放射線同位元素の濃度が1週間について法に定められた空気中濃度限度の 3/10 を超えるか、もしくは超えるおそれのある場所
3.放射性同位元素によって表面汚染密度がアルファ線を放出しない 同位元素の場合4Bq/cm2を超えるか、もしくは超えるおそれのある場所

3,労働安全衛生法令による基準 

1.外部放射線による実効線量と空気中の放射性物質による実効線量との合計が3月間につき1.3mSvを超えるおそれのある区域
2.放射性物質の表面密度が別表第三に掲げる限度の10/1を超えるおそれのある区域

4,人事院規則による基準 

1.外部放射線による実効線量が、3月間につき1.3mSVを超えるおそれのある区域
2.空気中の放射性物質の濃度が、人事院の定める濃度を超えるおそれのある区域
3.放射性物質によつて汚染される物の表面の放射性物質の密度が、人事院の定める密度を超えるおそれのある区域
4.3月間についての外部放射線による実効線量の第一号に掲げる線量に対する割合と空気中の放射性物質の濃度の第二号に掲げる濃度に対する割合の和が、1を超えるおそれのある区域

専門家ではないのでよく分からないところがあるが、医療現場でも労働現場でも、「外部放射線による実効線量が、3月間につき1.3mSVを超えるおそれ」がある場所を、放射線管理区域としているようだ。
医療の業務でやむを得ず一時的に滞在せざるを得ない大人、または、仕事の関係で労働者として一時的に行かざるを得ない場所、そんな危険をも顧みないで行く場所の安全を確保するための外部放射線量管理基準が、この放射線管理区域だということが分かった。
3か月間なので、年間になおすと4倍の、5.2mSV/年となる。この数値は是非記憶しておいてもらいたい。
ところで、4月19日に求めに応じて文部科学省福島県にだした通知には、思わず目を瞠り背筋が寒くなった。以下が、国際的には人体実験レベルと評されている恐るべき通知である。
福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」 
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1305173.htm
この通知によると学校の許容放射線量は次のようになっている。

児童生徒等の受ける線量を考慮する上で,16時間の屋内(木造),8時間の屋外活動の生活パターンを想定すると,20mSv/年に到達する空間線量率は,屋外3.8μSv/時間,屋内(木造)1.52μSv/時間である。したがって,これを下回る学校では,児童生徒等が平常どおりの活動によって受ける線量が20mSv/年を超えることはないと考えられる。さらに,学校での生活は校舎・園舎内で過ごす割合が相当を占めるため,学校の校庭・園庭において3.8μSv/時間以上を示した場合においても,校舎・園舎内での活動を中心とする生活を確保することなどにより,児童生徒等の受ける線量が20mSv/年を超えることはないと考えられる。

要するに「非常事態収束後の参考レベルの1−20mSv/年」の最大値、通常においては原発労働者や医療業務従事者を想定した業務用の放射線管理区域の考え方のなんと4倍近い高濃度を、感受性が高いと言われている子ども達に適用するという指示である。この基準があまりに酷いと思ったのか、 別添に以下のような<生活上の留意事項>なる注意書きがついているのを見て、笑ってしまった。放射性物質をインフルエンザ・ウィルスと勘違いしているのではないだろうか。内部被爆を危惧しているのであれば、この通知は出すべきではなかった。

1,校庭・園庭等の屋外での活動後等には,手や顔を洗い,うがいをする。
2,土や砂を口に入れないように注意する(特に乳幼児は,保育所や幼稚園において砂場の利用を控えるなど注意が必要。)。
3,土や砂が口に入った場合には,よくうがいをする。
4,登校・登園時,帰宅時に靴の泥をできるだけ落とす。
5,土ぼこりや砂ぼこりが多いときには窓を閉める。

この通知には国際的にも批判が多く、代表して独シュピーゲル誌が発表した「日本は子どもに対して高い放射線値を確定した」と題する論説記事を引用しておこう。 (画像はシュピーゲルにのった印象的な子どもの写真の借用)

「福島カタストロフ〜日本は子どもに対して高い放射線値を確定した」(2011年4月21日 シュピーゲルオンライン)
これは東京当局のゆゆしき措置だ:日本の子ども達に今やドイツの原発作業員と同じだけの放射線値が降り注いでいる。シュピーゲルインフォメーションの取材を受け、文科省は最大被ばく量の値を確定した。専門家は困惑している。
東京 −福島カタストロフ現象の取り組みで、日本の文科省は極端な手法に着手した:同省は、子ども達が学校や保育園で浴びることになる放射線量の最大値を毎時3.8マイクロシーベルトに確定したのだ。シュピーゲルインフォメーションによれば、これは一日に8時間外気に当たる場合に1年で約20ミリシーベルトに達する恐れのあるもので、−ドイツの1人の原発作業員の最大値と同じである。
「これは多すぎる」と、グリーンピース関連の独立専門家であるシャウン・ブルニーは言う。「子どもは大人よりも放射線への感受性が高い」とオットー・フーク放射線研究所のエドムント・レルンフェルダーは憤慨する:「より多くの発ガンの可能性を考慮しなければいけないのは確実だ。政府は限界値を法的に逸脱したのだろうが、道徳的には許されない。」
ミュンヘンヘルムホルツ放射線防護研究所所長のペーター・ヤコブは、放射能事故における国際放射線防護委員会によれば、年間20ミリシーベルト以下の測定値が推奨されるにもかかわらず、日本政府の措置としては本当に初めて深刻な問題になるとしている。:「子どもは高い放射線への感受性を持っているので、20ミリシーベルトという値はなんとしても避けなければならない。」
多くの日本の両親達が、被災地での4月6日の学校再開に反対した。グリーンピースは、地域の市民団体や環境団体による、限界値(基準値?Grenzwerte)に反対する戦いを支援する意向を示している。
日本はその間、損傷した福島原発周辺を立ち入り禁止区域と設定した。菅直人首相は木曜日に福島県を訪問し、国の許可がなければ入れないと、原発から半径20kmの立ち入り禁止区域について説明した。そこは以前確かに避難区域に設定されたが、立ち入り禁止ではなかった。立ち入り禁止区域の法律はこの木曜日の深夜(現地時間)に発効されたのだ。
3月11日の地震津波を生き延びた約8万人の住民がこれに当てはまる。放射能の危険性にもかかわらず、家財道具を持ち出すため独断で居住地域に戻る避難者はますます増えていた。今は印刷された許可証を提示する場合のみ可能となっている。1世帯に1人だけ、この地域への2時間の立ち入りが認められている。その際、防護服と線量計を身につけなければならないと枝野ゆきお官房長官は説明している。彼らはまとまってバスで立ち入り禁止区域に連れて行かれる。しかしこれは損傷した原発施設から3km以内に家のある人には適用されない。彼らはこの区域に絶対入ってはならないのだ。
日本政府はさらに、核廃墟の周囲20km周辺の避難区域を、放射性粒子が長期的に蓄積する懸念から、一部の市町村に対して拡大した。当該地域の住民は約1ヶ月住居を離れなければならない。
福島原発を破壊した未曾有の地震津波から1ヶ月以上が経つが、25年前のチェルノブイリ大爆発以来の深刻な原発被害は未だに制御下に置かれていない。東電は週末、6ヶ月から9ヶ月の間に損傷した原子炉を安定させることができるよう期待すると述べた。この工程はしかし、「全てが順調に進んで」初めて達成されるだろうと、枝野は述べている。
政府はさらに、損傷した福島第一原発から約10キロに隣接する福島第二原発の周囲の避難区域を縮小すると発表した。「もっとも深刻な事故」の可能性が薄まったという。この区域はこれで原発周囲10kmから8kmに縮まった。そこの全ての原子炉は長期的な停止を安全に行えると見なされている。
原文:Fukushima-Katastrophe / Japan legt hohe Strahlengrenzwerte für Kinder fest
http://t.co/xj8cWfw

国内でも、日弁連をはじめ複数の市民団体から抗議声明が出されている。この通知を白紙撤回させるための動きが各地で始まった。希望に満ちているはずの春が、こんなに暗い年はこれまで経験したことがない。


<追伸>実効線量1.3mSv/3カ月を毎時に直すと、1.3mSv÷90日÷24時間=約0.6μSv/hとなる。この0.6という数値を覚えておいて以下の福島県の教育関係施設の測定値をチェックしてみてほしい。ほとんどの保育園幼稚園小中学校が、放射線管理区域にはいっていることが分かる。http://www.pref.fukushima.jp/j/schoolmonitamatome.pdf この事実の恐ろしさは、子どもをもつ親なら分からないはずはない。


<追伸の追伸>もしかすると、事態は既に教育の問題から、医療のレベルへと移行しているかもしれない。放射線被曝関連の医療情報サイトが立ち上げられている。被爆管理と臨床レベルでの情報が必要な方は、以下のサイトへ。
東日本大震災―医療関係者への翻訳をメインとする後方支援のページ》 
http://sites.google.com/site/honyakushienforjapan/home
現時点でアップされている<小児医療>情報。
・小児における原子力災害後の被曝管理 
http://sites.google.com/site/honyakushienforjapan/uptodate/Management-radiation-exposure-in-children-following-a-nuclear-disaser
・小児における放射線被曝の臨床学的特徴 
http://sites.google.com/site/honyakushienforjapan/uptodate/Clinical-features-of-radiation-exposure-in-children
(追伸の3)文科省の通知を受けて、厚労省からも同じような通知が福島県内の保育園関係方面へ出されている。この酷い基準を超えている施設も報告されている。詳しくは、以下の引用枠から当該URLへ。

福島県内の保育所等の園舎・園庭等の利用判断における暫定的考え方について(平成23年4月19日)
(福島原子力発電所事故関連)
 標記の件につきまして、原子力災害対策本部から、福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方が示されました。(別紙1)
 これを踏まえ、別紙2のとおり福島県等に対し、通知を発出いたしましたので、あわせてお知らせします。

(別紙1)(PDF:155KB)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000019uyg-img/2r98520000019uzx.pdf
(別紙2)(PDF:111KB)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000019uyg-img/2r98520000019vqi.pdf
(参考)福島県内の学校再調査の結果一覧(PDF:240KB)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000019uyg-img/2r98520000019vrh.pdf