武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『地球一周98日間の船旅』 佐江衆一著 (発行祥伝社005/06/25)


 海外旅行がお好きな方なら、一度はピースボートによる<地球一周の船旅>に興味を持たれたことがあるに違いない。時折、意外なところで見かけるピースボートのポスターで、どんなクルーズなのか、機会があったら調べてみたいと思っていたので、bookoffの105円コーナーでこの本を見つけたときは、躊躇なく購入した。
 著者が、その端正な文体でお気に入りの佐江衆一さんだったこともあるが、単なるピースボートの情報が欲しかったのではなく、もっと彼らが企画するツアーの精神や雰囲気のようなものが知りたかったからである。
 一読、期待通りの好読み物であることが分かり、引きつけられ、一気に最後まで読まされた。こんなに充実した見事な旅行ができる、著者の生き方にもとても惹かれた。ずぼらな私などにはとても真似ができないような、素晴らしい毎日の精進ぶりに感服した。70歳の見事な旅行スタイルである。旅行好きにお勧めしたくなったので概要を紹介しよう。
 ①ピースボートという国際交流NGOについて詳しいことを知るための本ではない。現在、第67回目の航海中だという同組織については別の書籍なりメディアを当たる方がいいだろう。この本は、あくまでも佐江衆一という作家個人による体験的旅行記である。
 ②著者がこの航海に参加した目的は、二つあったようだ。一つは長年の夢である豪華客船による世界一周航海、もう一つは70歳という古希に達したことを記念して、一人で3ヶ月を旅して人生の来し方と今後の晩年の生き方について、思いを巡らせてみたかったということの、この二つ。
 ③従って、本書の内容は、風光明媚かつ貧富の格差に苦しむ地球の現状に、自分の肌で触れることと、人間の生き方について思いを深め、これからの生き方を船上という空間で試行錯誤してみるという、実に盛りだくさんなものになっている。
 ④チョットした長旅を体験してみるとわかることだが、旅は自らの日常生活からの離脱という性質を伴いながら、不思議とそれまでのその人の生き方を色濃く反映してしまう。3ヶ月にも及ぶこの著者の旅行スタイルなど、まさに日頃の生き様の反映そのものと見える。ライフスタイルという見えない殻を背負ったカタツムリの旅姿を思い浮かべた(失礼)。
 ⑤70歳とは思えないこの著者の行動力が凄い。航海中、著者が参加するオプショナルツアーや船内で参加したり、自ら企画して取り組んだりする取り組みが半端ではない。家族を伴わない一人旅だからこそできるパフォーマンスかもしれないが、旺盛な好奇心には頭が下がった。
 これまでの自分の旅のスタイルを見直してみたいと思ったことのある旅行好きには、是非お勧めしたい。ピースボートの航海に興味のある方も、航海の実際を手触りをもって知りたいと思っておられる方にも一読をお勧めしたい。
 最後に、目次を引用しておこう。

第1章 これぞ男のロマンと冒険
第2章 一番弟子はギリシャ青年画家
第3章 ベトナムスリランカで村にホームステイ
第4章 インド洋からスエズ運河
第5章 アテネ・オリンピックと地中海クルーズ
第6章 ロンドン、美しい未亡人との一夜
第7章 ベルゲン、フィヨルド遊覧、北アイルランド
第8章 大西洋横断、トパーズ村の人間模様
第9章 おお、自由の女神、グランドゼロのニューヨーク
第10章 ガラパゴス諸島クルーズ
第11章 コロンビア、パナマ運河グアテマラ
第12章 アメリカ西海岸沖で映画を作る
第13章 大荒れの太平洋横断16日間