武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

2006-01-01から1年間の記事一覧

 『長く熱い復讐』大藪春彦著(発行角川文庫)

大藪春彦の作品は可なり読んでいたつもりだったが、これはどうやら未読。bookoffの100円コーナーで見つけたので躊躇せずに購入、読み始めてみて吃驚、まるっきりだれたところがない。終始、情景描写も緊密で、銃器や武器の説明が過不足なく要約されていて…

『石田徹也遺作集』(発行求龍堂)

31歳で05年の5月になくなった石田徹也の画集だが、何度眺めても、言葉を失う。人前で見るにしのびないいほどの負の情感がどの絵からも暗くもやもやとわき上がる。いつも同じ焦点の定まらない男の顔が、視線を遠くに投げているばかり。ほぼ平行に伸びて…

 『韓国現代詩選』茨木のり子訳編(発行花神社)

今年の2月に他界された茨木のり子さんの韓国現代詩の翻訳を読んでいて、どうしても紹介したい詩があったので、引用させていただく。作者は、1925年生まれのホンユンスクさん、茨木のり子さんの芯のある美しい日本語に移されて、なんとも薫り高い一編に仕上が…

 『ぼくらの小松崎茂展』印象記(逓信総合博物館)10月7〜12月3日

私の少年時代は、圧倒的に小松崎茂のイラストに影響された時代だった。戦後文化の代表の一つのマンガは勿論だが、絵物語というメディアによって物語を読む楽しさを、小松崎茂のイラストを通して学んできたことを痛いほど実感した展示だった。 すべてを雑誌や…

 ベルギー王立美術館展印象記(国立西洋美術館)9月12〜12月10

ブリュッセルにあるベルギー王立美術館にいったのは何年前になるか、確かオランダ、ベルギーと同時期に旅行したのだったが、旅行の何よりの楽しみが美術館探訪だった。その折の目玉だった王立美術館の名品が来るというので上野に行ってきた。 予想していた以…

 『天国への道』白川道著 (幻冬舎文庫)

400ページを越える分厚い文庫の(上)(中)(下)三巻、原稿用紙にして2000枚を凌駕する長編小説。かつてテレビドラマ化されたことがあるらしいが、数日間をたっぷり楽しませてくれる、ミステリー仕立ての恋愛小説。美男美女として設定された主人公…

 池田20世紀美術館(静岡県伊東市)

4日間ほど伊豆へ旅行に行ってきた。その折に立ち寄った「池田20世紀美術館」が、周辺の環境を含め美術館の建物、収蔵品のレベル、展示方法など、いずれも素晴らしく、見事な20世紀の現代美術を堪能する時間を過ごさせてもらった。美術の書籍などの画像…

 木枯らし1号が武蔵野に吹いたこと

(画像は陽だまりで咲き誇ってた菊、このごろ散歩でよく見かける) 二十四節季によると11月7日が立冬と言うことになる。ネットで調べたら「陰暦10月の節で、陽暦の11月7日頃。この日から立春までが暦の上で冬。季語には冬立つ、冬に入る、冬来る、今朝の…

 十七年蝉(ジュウシチネンゼミ)の紹介

<十七年蝉>の名前を聞いたことがおありだろうか。十七年間を地中で過ごし、十七年に一度地上に出てきて、数週間(2〜3週間)地上で蝉として暮らし、気に入った相方を見つけて交尾し、受精し、産卵して、十七年の寿命を終えるという珍しい蝉のこと。十七…

『悪の華』ボードレール著 安藤元雄訳(集英社文庫)

詩集「悪の華」の翻訳は数多い。私が読んだものだけでも、堀口大學、金子光晴、鈴木信太郎、福永武彦、阿部良雄、安藤元雄、この6人分もある。どれか1冊でいいのにどうしてこんなにあり、沢山読んでしまったのだろう。どれを読んでも、何だかしっくりこな…

 『流され者①狂神の章』 羽山信樹著(角川文庫)

この国が大きな変革の荒波に飲み込まれた幕末、流刑地八丈島を舞台に、前代未聞の時代劇ヒーローを配置した、類例のない伝奇時代小説「流され者」の魅力について語りたい。時代小説に求められる暗黙の枠組みや創作上の約束事をほとんど無視した上で展開して…

 『お鍋にスカートはかせておいしさ大発見』 小林寛著 (カッパバックス)

魚塚仁之助さんの「清貧の食卓」に紹介されていた「はかせ鍋」と小林寛さんのこの本にすっかりお世話になっている。著者は大學の工学の先生らしく、日常的な常識に支配されがちな調理について、分かりやすく理屈っぽく、しかも科学的にアプローチするところ…

 『ルソーの見た夢、ルソーに見る夢』 世田谷美術館企画展の印象記

一度見ると忘れられなくなることが、ひとつの名画の物差しになるような気がする。最初に見たアンリ・ルソーの絵がどれだったかは忘れてしまったが、見たとたんにアッこれはルソーだなとすぐに分かる。そして、何度でも見たくなるのが私にとってのルソーの絵…

 退職者と秋とキャンプ旅行

(画像は、休暇村裏磐梯キャンプ場にセットした小さな我が家、広大なキャンプ場にたった二張だった) 先週と今週、福島県と栃木県へ、紅葉を楽しむ旅行に行ってきた。宿には泊まらず、宿泊の基本は原則としてキャンプ場でキャンプ、張ったテントをベースキャ…

 『アントニオ・マルケス舞踏団』公演 印象記

昨夜、所沢ミューズのマーキーホールで、アントニオ・マルケス舞踏団の公演を見た。スペイン国立バレイ団のトップから華麗にフラメンコダンサーに転進したというふれ込み通り、民族舞踏としてのフラメンコの型を取り入れながら、表現の幅はフラメンコをはる…

 簡単漬け物あるいは簡単常備菜による食卓合理化のすすめ

(画像は近所の農道の栗畑で実ってきた栗) 自由な時間がたっぷり出来ると有意義な気分転換が大切になってくる。私の場合、①自宅周辺地域への散歩、②食材の買出しと調理、③僅かばかりの蔵書の整理。こんなことが単調に流れがちな退職者の日々の暮らしに、リ…

 『人生の特別な一瞬』 長田弘著(晶文社発行)

長田弘は、<大人の詩人>である。詩は青春の文学と言われるように、多くの詩人は10代〜30代までの青年期に多くの作品をなして、それ以降は散文家になるか、沈黙しないまでも寡作な表現者となる。長田弘には、20代から30代にかけての詩集が4冊しか…

 『田村隆一詩集』 田村隆一著 

http://mansonge.hp.infoseek.co.jp/trp/ かつて<戦後詩>と呼ばれた現代詩のカテゴリーがあった。若い頃、世界の感じ方、拒絶の仕方などを、鋭敏な言葉を通して教えられた。日本語がこんなにも鋭く、栄光に暗く燦然と輝くこともあることを学んだ。そんな<…

 『御鑓拝借−酔いどれ小藤次留書』 佐伯泰英著(幻冬舎文庫)

最近の新聞広告でよく見かけるようになった時代小説作家<佐伯泰英>が気になっていた。沢山の時代小説をシリーズで、しかも雑誌連載でなく文庫書き下ろしで書いている作家なので、どれから読もうか迷ったが、何となく手に取ったのがこの「御鑓拝借−酔いどれ…

 奥日光は紅葉の兆し幽かに(奥鬼怒温泉郷の八丁の湯温泉混浴風呂風景)

二泊三日で、奥日光は小旅行に行ってきた。木曜日から関東地方で三日間ほど晴天を期待できるという気象情報を信じて、雨が振る前に帰宅すると言う予定だった。 今回の旅行のルールにしたのは、つぎのような条件にした。 ①退職者にとって急ぐ必要がないので、…

 武蔵野に秋の訪れ

この時期の朝の散歩は、一年中で一番爽快、快適の一語に尽きる。今朝も、住まいを出て住宅街の公園を一巡り、足を北に向け、なじみの果樹園を横切り、中富地区の畑の道に進んだ。この地域は水利のためか全く水田がない。都市近郊の野菜畑と狭山茶の茶畑が広…

 『グールモン詩集』 堀口大學訳(発行弥生書房)

グールモンの名前を初めて目にしたのは、近代の名訳詩集「月下の一群」を読んでいたときだった。堀口大學訳のこの詩集には、広く人々に口ずさまれ親しまれるような名訳の詩編が多数収録されていて、今なお時々ページをめくることがある。その中でも、若い頃…

 『ツーリングマップル1北海道』(発行昭文社)

車で移動する時、カーナビが便利なことが言うまでもないが、画面が小さいことから、何日もの旅行となるとどうしても何らかの地図帳が必要となる。8月の中ごろ、避暑を兼ねて2週間あまり北海道を旅行した折も、地図が欲しくなっていろいろ考えた末に買った…

 『赤い霧』 ポール・アルテ著 平岡敦訳(ハヤカワ・ミステリブック)

物語の楽しみ方と言うか鑑賞方法と言うか、小説の読み方には、各人各様のいろいろな読み方があると思うが、ギリシャの昔から登場人物への感情移入という古典的な方法がある。お気に入りの登場人物の気持ちになってストーリーを楽しむと言うやり方だ。多くの…

 『コウノトリの道』ジャン・クリストフ・ラグランジュ著 平岡敦訳(創元推理文庫)

「クリムゾン・リバー」が面白かったので、同じ作者の処女出版作品をネットで購入、読んでみた。amazonによる書籍検索と購入の便利なことと言ったら、以前にターゲットの本を探して図書館や大型書店をうろついて足を棒のようにして歩いたことを思い出す。ネ…

 『グエルム−漢江の怪物』 ポン・ジュノ監督 

連日の雨降りで遠出もままならず、急に思い立ってシニア料金で、今評判の韓国製の怪獣映画を見ることにした。ネットの映画評では、好評と不評が混ざっていてよく分からない。自分で見て自分で感じてみようとでかけた。結論から先に言えば、全く退屈すること…

『クリムゾン・リバー』 ジャン・クリストフ・グランジェ著・平岡敦訳(創元推理文庫)

同名の映画をテレビで先に見ていたが、フランス・ミステリー界の大型新人作品とのふれ込みに乗せられて、105円というbookoffの低価格にも助けられて思い切って読んでみることにした。つまらなかったら途中で放り出せばいいと思って読み始めたのだが、作者…

『異聞おくのほそ道』 童門冬ニ著(集英社文庫)

以前に芭蕉の奥の細道をテーマにバイクツーリングをやったことがある。奥の細道の本文と曾良の日記を参考にしながら、可能な限り芭蕉達が歩いた街道に近いルートをたどり、芭蕉達が立ち寄ったと思われる旧跡をたどってみようと言う可笑しなツーリングだった…

 『サラリーマン野宿旅』 蓑上誠一著(発行八月舎)

<野宿>というキーワードが好きで、若かった頃、何度かオートバイに乗って実践したことがある。今でも機会があれば、またやってもいいという気もするが、自分でやるよりも他人の体験談のほうが面白く、実行は先延ばしになっている。ネット上のサイトにも、…

 『蝶の生活』 シュナック著 岡田朝雄訳(岩波文庫)

かつて私達の身辺に自然が色濃く残っていた時代、子ども達の中に一定の割合で、昆虫に並外れた興味をもち誰もが昆虫博士として認める子どもがいたものだった。身近な自然がどんどん失われてしまった今、かつてのような昆虫少年は、今もいるのだろうか。この…