武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『長く熱い復讐』大藪春彦著(発行角川文庫)

toumeioj32006-12-26

 大藪春彦の作品は可なり読んでいたつもりだったが、これはどうやら未読。bookoffの100円コーナーで見つけたので躊躇せずに購入、読み始めてみて吃驚、まるっきりだれたところがない。終始、情景描写も緊密で、銃器や武器の説明が過不足なく要約されていて、必要な範囲に抑制されている。
 大藪春彦の復讐物は数多いが、この作品はその中でもベストを争える傑作だろう、書き出しから始まる目を覆いたくなるような濃密で残酷なアクションが最後まで持続する。おそらく、作者の気力体力が充実していた、所謂油の乗った時期の作品だったに違いない。
 ストーリーはシンプル、記憶喪失により過去をなくした囚人、鷲尾進という名の戦闘能力抜群の主人公が、刑務所暴動により脱獄、自分の過去を暴力と拷問という方法を駆使して探り出し、自分を陥れた謀略の首謀者とその組織を徹底的に破壊するという、大藪春彦得意のハードな悪漢小説。
 失くした過去を回復するというミステリーを柱に、最愛の妻を惨殺した敵に対する復讐を動機付けにして、自衛隊特殊工作員時代に身に着けたという兵器操作スキルを武器に、殺戮につぐ殺戮に終始するという物語。武山という金庫破りのプロを相棒に、コンビによってバージョンアップした戦闘能力がいたるところで向かうところ敵なしの形で炸裂する。勝ち続けるというご都合主義もここまでくれば言うことなし。
 作中、二度ほど出てくる敵から逃げ延びるための山中のアウトドアシーンが、迫力があり爽やか、サバイバルに必要な用具を的確に使いこなし、敵の包囲網から脱出するシーンには胸がすくような爽快感がある。カーアクションも拷問シーンもそれほどくどくなく(人によってはそれでもくどいと言うかもしれないが)ストーリの展開とバランスが取れている。型に嵌った例の濡れ場シーンがとても少ない。
 大藪春彦の得意とする物語の要素がたくさん寄せ集められているにもかかわらず、どのシーンも適度に刈り込まれていてバランスが取れており、終始、見事な大藪節が堪能できる大藪復讐劇の傑作、単調な日常にあきあきしている勤め人の方々、映画化不可能なほど反社会的なスーパーヒーローで憂さを晴らしてみてはいかが。