武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『ゴヤ全版画集』 ゴヤ作・谷口江里也編集 (発行講談社1984/08/10)


 かねてからまとめて見たいと思っていたゴヤの全版画集を図書館の検索で見つけ、借りてきた。大型本で全ページ厚手のアート紙にオフセット印刷なので、重量も重いが内容はさらに重い。モノクロのエッチングで、これでもかと人間社会の歪んだ面や暗い面を形象化して、まるで醜い内蔵をさらけ出したかのようなリアルな画像が連続、見ていて非常に疲れる画集だ。
 見始めて直ぐに気付いた、壮年期から晩年にかけて、聴力を失い画業に全精力を注いで、しかも何年もかけて完成にこぎ着けた画集を、まとめて鑑賞すること自体に無理があった。この画集には、ゴヤの四大版画集と呼ばれている画集の全作品が収録されている。最初に、内容を概観するために、目次を見ておこう。

(1)Los Caprichos=気まぐれ
(2)Los desastres de la Guerra=戦争の惨禍
(3)Los DisParates=ディスパラテス<妄>
(4)Tauromaquia=闘牛技
(5)Obras Sudtas独立版画
ゴヤ的なものを巡って−谷ロ江里也
ゴヤにおける飛行術−谷ロ江里也
年譜 

 この版画集を見ていて、念のためにネット上を検索してみたら、なんと著作権がきれた作品として、各版画集の全画像がアップされているサイトが見つかった。なかなかに精度の高い画像で全版画が見られるので、紹介してみよう。  
(1)まず、Los Caprichos=気まぐれ、傑作風刺画集として有名な全80点の初版がもれなくPDFファイルに収録されているので、是非ご覧頂きたい、ダウンロードもできる。
http://www.gasl.org/refbib/Goya__Caprichos.pdf
Wikimedia Commonsのこちらには(ロス カプリチョス)のための下書きや素描が80点収録されている。
http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Dibujos_preparatorios_de_los_Caprichos_de_Goya
Wikimedia Commonsのこちらには(ロス カプリチョス)の範疇に分類されるゴヤの版画が、黒刷り、セピア刷り等を入れて全220点完全収録。
http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Los_Caprichos
(2)Los desastres de la Guerra=戦争の惨禍、ナポレオン軍のスペイン侵略と民衆のゲリラ的な抵抗が引き起こした現実の惨たる実情に深く迫った、史上初のビジュアルな戦争ルポルタージュの傑作版画集、ゴヤの近代性に背筋が寒くなる。
三重県立美術館サイトに初版80点。
http://www.pref.mie.jp/bijutsu/hp/collection/goya_guerra/goya_guerra.htm
Wikimedia Commonsのサイトには合計96点の<戦争の惨禍>が完全収録。
http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Los_desastres_de_la_guerra
(3)Los DisParates=ディスパラテス<妄>、人間性の愚かしさの追求が、極点にまで達した感のある画家の呻き、あるいは声を失った哄笑のような究極の版画集。
三重県立美術館のこちらには、第8版の全22点を全点収録。
http://www.pref.mie.jp/bijutsu/hp/jp/index_collect.htm
Wikimedia Commonsのこちらには26点の全作品を収録。
http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Los_disparates
(4)Tauromaquia=闘牛技、このシリーズは視覚の背後までも突き通すような幻視にまで到達した作品ではないので、酷たらしい闘牛シーンにもかかわらず、精緻なリアリズムにほっとする。それほどにこれまでの3シリーズは凄い。このシリーズは、三重県立美術館サイトに第4版の全40点が収録。今回の検索では、闘牛技に限ってはここが一番充実していた。
http://www.pref.mie.jp/bijutsu/hp/jp/index_collect.htm
Wikimedia Commonsのこちらには13点の闘牛技シリーズが収録。
http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Tauromachia
 ゴヤ全版画集の紹介がいつの間にか、ネット上のゴヤ版画集紹介に終始してしまった。どの作品を見ても、気持ちよくなれるなんて無理だが、ゴヤという偉大な近代画家が見つめた人間性の奥底を垣間見ることの出来る素晴らしい作品群である。これを機会に私は全コンテンツをダウンロードし、PCにゴヤ版画作品庫を作らせてもらいました。