武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 電子書籍 事始め(2)

《CD-ROMに詰め込まれた情報》

 電子辞書の次に思いつく 電子書籍のようなもの は、新潮社のCD-ROMシリーズ(1995/12) だ。CD-ROMに大量の書籍情報を収録して商品化したものが、Wndows95でPC市場が急拡大するのに合わせて、90年台の後半頃に次々と登場してきた。既存の本を電子化したものの他に、オリジナルなCD-ROM画集や写真集、図鑑など学習資料のようなものも多様に商品化されて出てきた。家電小売店のパソコン売り場の一角に、売り場ができていたこともあるが、今は全く見当たらない。
 最盛期は95年頃から10年間ほどだったろうか、PCとOSが数年ごとに進化するのに、CD-ROM自体は新しくならないので、読み込めるOSとしてのプラットホームがなくなり、せっかく買ったものが使えなくなったりした。困って版元を探したら、すでに倒産して版元自体がなくなっていたケースもあった。市場が非常に流動的だった。

 もう一つは、従来からある百科辞典などを収録して検索機能を付け加えたもの。平凡社の世界大百科辞典が一枚のCD-ROMに収まったのは驚きだった。そのほか、理科年鑑などのような情報量の多い出版物が検索機能付きで次々とCD-ROMとして商品化されていった。農文協の「聞き書き/日本の食生活全集 全50巻」がCD-ROMに収まったのも印象的だった。検索機能がついてコンパクトで便利な商品だったが、どの商品も非常に高価だった。

 100冊の新潮文庫が収納されているという発想が気に入って、新潮社のシリーズは、格安の中古品が出まわるのを見計らって全部入手した。同じスタイルの平凡社世界大百科のCDROM版が先のように思っていたが、百科の方は(1998/10) だったので、新潮社の方が先だった。発売されたのは以下の5種類。

新潮文庫の100冊 (1995/12)
新潮文庫明治の文豪(1997/1)
新潮文庫大正の文豪(1997/7)
新潮文庫シャーロックホームズ全集(1998/2)
新潮文庫の絶版100冊(2000/5)

 PCにセットして、収録されている読み込みソフトをダウンロードし専用画面で読むか、T-Timeなどのテキストビューアで読むことになる。何よりもCD-ROM一枚に大量の作品が収録されていことに感激、すべてをこれで読むつもりはないが、書庫を整理するのに好都合だった。
 問題点は、PCの世代交代が早くて、XP以降のPCでは読めなくなったこと、従って、後期のXPを一台予備として安い中古を確保したことだろうか。

 商品としては一時的な人気にとどまったのか、2000年以降は、このCD-ROMスタイルの一般書ビジネスは下火になってしまった。平凡社の世界大百科などのように、膨大なデータをCD-ROMに検索機能をつけて販売するスタイルは細々と続いているようだ。

電子辞書もCD-ROMも、大量の情報をコンパクトにまとめたものとして、個人的には便利に利用させてもらったけれど、今盛んに話題になっている商品としての<電子書籍>とは、相当に違いがある。次回からは、電子端末としての電子書籍について考えみたい。

(続く)