武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 1月第3週に手にした本(14〜20)

*先週の雪が、気温が低いせいで北側の日陰で溶け残り、凍りついてツルツル滑る。雑木林でもザラメ状になった雪が残っていて寒々しい。葉を落として透けて見えるようになった落葉樹の枝々を、冷たい北風が音を立てて吹き抜ける。西高東低の気圧配置が多いこの時期、武蔵野の空は雲ひとつない蒼空となり放射冷却を体感できる。

◎P・ドリュ・ラ・ロシェル著/菅野昭正・細田直孝訳『ゆらめく炎』(河出書房新社1967/5)*ルイ・マルの映画「鬼火」の原作と言えば、どんな作品か分かりやすいかもしれない。麻薬とアルコールに精神を蝕まれるということは、薬物を受け入れる前史と背景があるわけだが、それは背景に退けられ、克明に綴られた暗澹たる退廃の果てに自殺という結論にたどり着く虚無に彩られた出口なしの物語。栞にあるように「自殺への道」と評するにふさわしい作品、これも文学。10:20 2013/01/21

谷川俊太郎/山田馨著『ぼくはこうやって詩を書いてきた、谷川俊太郎、詩と人生を語る』(ナナロク社2010/7)*編集者山田馨氏による谷川俊太郎インタビュー集、丹念に谷川の詩集をたどる聞き語りなので、著者自身による最良の谷川文学への入門書になっている。老境に達した著者だからこそ語れる淡々とした回想が、谷川文学に穏やかな光を投げかけて、また再び詩集を手にとって見たくなる。

ポール・ギャリコ著/灰島かり訳『猫語の教科書』(ちくま文庫1998/12)*猫によって書かれた猫達のための猫語の生き方ガイドブック、というこのアイディアは「吾輩は猫である」に近いが、内容は徹底して猫寄りな点が楽しい。いかにして人間を操縦し、猫の自由を確立するか、という戦略が、巧妙なユーモアを演出する。著者の才気を愉しむ本。

吉野弘著『吉野弘全詩集』(青土社2004/7)*1000頁近い大冊に、11冊の既刊詩集が収録されている。磨き抜かれた端正な日本語が特徴の、味わい深い詩篇がたっぷり味わえる。数多い傑作の周辺に散らばっている、知られざる作品群が著者の肌触りを漂わせて興味深い。これが全集を手にする愉しみでもある。