武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 6月第4週に手にした本(25〜1)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

◎吉田春生著『開高健・旅と表現者』(彩流社1992/1)*19年のJTB勤務の後、文芸評論と旅行論の執筆に専念、とある。こう言う経歴の人は私の好み、本書はこの著者の文芸評論の第1作目、文芸と旅行の両面にわたって戦後の日本で大活躍した開高健の斬新な評伝。開高の業績に対して、これまでの論とは違う角度から光を当てており、好奇心を掻き立てられながら読んだ。開高健論の領域を押し広げた問題提起の書。旅行者としての開高の分析は、さすが元旅行業者 冴えている。
谷川俊太郎編/長新太絵『暖炉棚上陳列品一覧』(書肆山田1981/6)*日本のライト・ヴァース1としてシリーズの巻頭を飾った瀟洒な詩集。捻りがきいてユーモラス、ほろ苦くて鮮やかな切り口、そんな奇妙な味わいの詩篇ばかりが一堂に会して、何とも楽しい。個人が量産できる作品ではないので、こうした形に集められてまとめて読めるのは嬉しい。
◎長谷川郁夫著『本の背表紙』(河出書房新社2007/12)*思い出の本や著者にまつわる話を、季節感に寄り添うようにして綴った軽い随想集、地方新聞の日曜版にほぼ3年間連載されたもの、長い出版人としての生活からにじみ出るささやかなエピソードが文章に彩りを添えている。損得抜きに本が好きだという気分が背後に流れており、全体をまとまりのあるものにしている。
◎小笠原克/吉田永宏編『鑑賞日本現代文学24野間宏開高健』(角川書店1982/4)*現在入手できる開高健にかんするベストなリファレンスブック、開高について資料状況を知りたい時、まずこの本がお勧め。このシリーズは、主要な作品鑑賞と発表時の文芸時評、研究案内と参考文献目録、そして詳細な年譜を揃えており、ある作家についてまとまった情報を入手したい人には、まことに便利な本。また、本の性質上、ほとんどの大きな図書館は全巻そろえているので安心。あとは、作品を自分で読み込むしかないだろう。
◎杉山平一著『希望/杉山平一詩集』(編集工房ノア2011/11)*5月下旬に亡くなられた抒情詩人の最後の詩集。3・11の惨事を受けて書かれた詩が題名になったと言う。90歳を過ぎてもなお、言語表現の現役であり続けることの凄さが、フレーズからフレーズへの自由闊達な飛躍から見えてくる。