武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 4月第5週に手にした本(25〜1)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)
ヴィスワヴァ・シンボルスカ著/つかだみちこ編・訳『シンボルスカ詩集』(土曜美術出版1999/12)*ポーランド出身のノーベル賞受賞詩人、シンボルスカの翻訳を何冊か手にしてきたが、私にはこのつかだみちこさんの訳が、日本語として一番こなれていて読みやすかった。この訳で読んでいると、ポーランド茨木のり子と評してみたくなる。言わんとしていることが明解で、苦いユーモアと暖かい庶民的なモラル感に包まれている。言葉を端正に並べる手つきは優雅で美しい。シンボルスカの詩の翻訳のベストである。
石原吉郎著『石原吉郎全集第1巻』(花神社1999/12)*シベリア帰りの代表的な戦後詩人、厳しく贅肉をそぎとって成り立たせた、鋭く鮮やかな輪郭線をもつ石原吉郎詩篇を一度にたくさん読むのは辛い。比較的硬度をおとした散文詩だけを今回は拾い読みしてみた。
杉本秀太郎著『古典を読む25徒然草』(岩波書店1987/11)*仏文学者である杉本秀太郎さんの古典随筆に魅せられて、再び手にした。この方の随筆を読んでいると、豊かな教養の力の凄さを体感できる、視界が一気に透明度を増す。めったに手の取らない古典の原文を手に取ってみたくなる。最良の古典のブックレビューである。酔いを誘発する名文である。
◎ピエール・ガスカール著/青柳瑞穂訳『種子』(竹内書店1969/3)*この本を読むといつも、大江健三郎さんの初期の傑作「芽むしり仔撃ち」を思い出す。植物の鋭い棘のような、ヒリヒリする神経が言葉の芯を繋いでいて、登場する少年達の世界が鮮やかに立ち上がる。名訳である。
開高健著『開高健全対話集成全8巻』(潮出版社1981/1〜1982/11)*後ろに付いている向井敏さんの<開高健ノート>だけを拾い読みした。長年の友情が通奏低音となって流れる親密で丁寧な解説は、まとめて読むとひとつの作品となって読むものを圧倒する。開高さんの座談の味わいも良いが、じゃじゃ馬的な開高さんに寄り添う向井敏さん端然とした折り目正しい解説もまた素晴らしい。