武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

2005-07-01から1ヶ月間の記事一覧

 初めてこの絵本を手にした時、本全体のデザイン感覚の洗練ぶりに魅かれた。一読、細いペン1本で書き上げた緻密でしかもやさしさに満ちたタッチの挿絵と、簡潔で象徴性豊かな文体、絵本とは思えないほどの広がりを持つストーリー展開に引き込まれ、魅了されたことを覚えている。

その後、同じ作者のものを期待して何冊か読んだが、この「タイコたたきの夢」ほどには感心しなかった。やがて、他にも沢山興味をもつものがあり、忘れていたが持ち物を整理していたらこの本が出てきたので、懐かしくてページをめくってみて、変わらない素晴…

 『ソバ屋で憩う−悦楽の名店ガイド101−』杉浦日向子とソ連編著(新潮文庫)

杉浦日向子さんが今月の22日、下咽頭(いんとう)がんで亡くなったとの報、46歳だったという。何ともったいない、この世界がまた少しさびしく、つまらなくなってしまった。 杉浦日向子さんが東京の京橋の呉服屋さんに産まれたのは、1958年。この国の…

 『少年動物誌』

昨日の続き(写真は散歩の折に近くの農道でみつけたエノコログサ、由来は犬ころ草が転じて出来た名前だそうだ、ネコジャラシとも呼ぶ。英語ではFoxtail grassと言う) さて、昨晩は、「少年動物誌」の著者が育った時代背景を説明しようとして、戦後の高度経…

 『少年動物誌』

1950年頃までこの国に確かに存在した多様性に満ちて猛々しいばかりに豊穣な身近な自然、その中で育った動物学者の少年時代の鮮やかな記憶に取材してなった稀有の傑作短編集。 1960年代の高度経済成長は、この国の自然を見事に切り崩し押しつぶし、二…

  子どもに対する紫外線の健康影響をテーマにしたおそらく唯一の啓蒙書 ふんだんにイラストを使った分かりやすい問題提起の書、子育て中の方と教育関係者に

台風7号が北の海で消滅し、この国は台風一過の言葉どおり、降り注ぐ強烈な太陽光線にあぶられ、気温が急上昇、各地で真夏日にあえいだ。ところで、この国の小中学校には、水泳用のプールが標準装備されているので恐らく今日など、全国の小中学校で水泳教室…

  デビュー10年、着実にレパートリーの幅を広げ表現の奥行きを増し、多彩な楽曲をギターの音色にのせて軽やかに好演 アコースティックギター表現の上限に到達か

台風7号の関東上陸のその時間、村治佳織さんのギターリサイタルを聴きに行った。次第に風雨が強まっていたが、中ホールの中には全く外の音は伝わってこない。プログラムの紙を持ちかえる音さえ雑音に聞こえてしまうほどの静かな空間、その空間に村治佳織の…

 かつてのツーリングライダーの陰のバイブル、野宿を緊急避難の手段からストイックな旅の方法論にまで高めたロングセラー。安直なアウトドアライフから抜け出したいと思っている人にお勧めの一冊

奥付が昭和59年5月13刷となっているので84年頃のある日、この本を手にしたのだと思う。今から20年ほど前の話になって恐縮だが、楽しい本なのであえて紹介してみよう。思い起こせば、ちょうどこの頃からアウトドアなる言葉が使われるようになり、キャン…

 この日のプログラムは、前半が新鋭フルート奏者高木綾子さんがソロをとるモーツアルトのフルート協奏曲第1番ト長調K.313、後半は若杉弘指揮の東京交響楽団によるマーラーの交響曲第5番嬰ハ短調。(これは昨日の7/23に公演されたもの)(画像はネット上で見つけた若杉さんだが、かなり以前のお姿のよう。現在はもう少しお年をめして、渋く枯れた感じがただよい、それだけに飛び上がらんばかりのダイナミックな指揮ぶりに一層こちらを熱くさせるものがあった)

この日の午前中には若杉弘さんのリハーサルの様子が一部の会員に公開されるという特典があった。残念ながら参加できなかったが、粋な企画と感心させられた。さらに、開演の30分ほど前には、会場のホールで入場者には、弦楽四重奏のミニコンサートのサービス…

『死にゆく人の17の権利』デヴィッド・ケスラー著/椎野淳訳(発行集英社) 現代における人の死についてやさしく毅然とした人間的な立脚点を確立した書、人間性回復の書。イデオロギーや宗教の傾向的色彩を帯びていないので安心して死について考えることが出来る死者の人権宣言。

この本の「はじめに」の断り書きの中で著者は、この本が書かれた理由を説明している。そこを読むと人の死が時代の刻印を穿たれるということがわかる。現代という時代が、人の人生から死を疎外する時代だということ、本書が書かれた理由もそこにあるというこ…

 アスベスト関連の最も信頼できるNPOが10項目のアスベスト対策を提言 その傾聴すべき内容を多くの人に知ってもらいたいために(写真は散歩の途中に道端で見つけたヘラオオバコの花、ヨーロッパ原産の帰化植物、江戸時代の終わりごろ開国とともにこの国にやってきた)

アスベストの健康被害報道が連日新聞紙面に出ている。テレビも特集を組むなど、アスベスト報道に取り組みだした。電波媒体、新聞媒体、次は雑誌媒体、そして、書籍媒体へと池に投じた石の波紋が広がるように、今後も法則的に反響が広がってゆくものと予測で…

 翼を広げて飛ぶ鳥形埴輪 和歌山の古墳から(画像は今朝の朝日新聞1面の埴輪の写真をスキャナーで読み込んだもの)

7/21の今朝、朝日新聞の一面を見て、ひときわ目を引く1面の写真に釘付けになった。なんという愛らしくしかものびのびとした形、粘土を捏ね上げて、この形を作り出した大むかしの人々の気持ちが漂いだしてきそうな感じを受け、しばらくぼっと見とれてしまった…

 『船瀬俊介の民間茶薬効事典』船瀬俊介著 (農文協健康双書) 効くか効かないかよく分からないがライフスタイルを見直すきっかけ作りになるかもしれない

今からかれこれ8年ほど前になるが、公私共に非常に多忙だった時に、疲労とストレスが蓄積していたのか、突然に腹部の激痛にみまわれ、救急車で運ばれたことがあった。診断名は胆石症、医師の話では、人間が体験する激痛の中でも、陣痛の上に位置するほどの強…

 グザヴィエ・デ・メストレ・ハープリサイタル印象記 

レコードやCDでは何度も耳にしているが、実は、ハープだけの生演奏は初めて。オーケストラの一角を占めている演奏は何度か聴いたことはあるがソロ・コンサートは聴いたことがなかったので、それだけで楽しみにして聴きにいった。しかも、泣く子も黙るウィン…

 留まる所を知らないかのようなアスベストの健康被害、新たな行政の対応と気になるアメリカからの報告(グラフは朝日新聞の記事の中から、いち早い対応のアメリカの事情が一目で分かるので引用)

7/15日の朝日新聞の記事によれば、厚生労働省は人口動態統計中の03年度の中皮腫による死者878人の詳細な調査をするという。03年度の中皮腫の労災認定は83名。何と1割にも満たない。死亡者の25%は女性。患者の発症原因と周辺環境も調査すると言う。対応が…

 私の周りには、知り合いを医療ミスで亡くしたのではないか、という疑いを持つ人が何人もいる。数時間前まであんなに元気だったのに、何故突然、掛替えのない大事なあの人が帰らぬ人になってしまったのか、納得できないまま疑惑を追及する手立てもなく、己の無力感を噛み締めている人がいる。有名病院の医療ミスが報道されるたびに、これは氷山の一角、実際にはもっともっと被害者がいるという思いが胸を過ぎる。(写真は道端で見つけたシロツメクサ)

この国の保険制度、医療制度、そして医師ひとりひとりのあり方を含め多くの問題が指摘されているが、問題解決の一つの出発点となるのが、患者の権利保障の視点だと思う。病気と言う強く振舞えない立場におかれ患者は、医師に対しては知識量として無に近い弱…

 『山のパンセ』串田孫一著(岩波文庫)

7月8日に随筆家の串田孫一さんが老衰のため亡くなられたとの訃報あり。力まない透明感のある文体で山岳エッセイを執筆、よく拾い読みさせてもらった名文家 いつ頃のことだったか忘れたが信州をのんびりツーリングしていた時、とある道路わきの登山口で休憩し…

 7/15の朝日新聞の報道によれば、経済産業省の調査の結果、アスベスト関連の製造業89社のアスベストが原因と見られる死者374人という。とんでもない数字だが、これは氷山の一角。自分がアスベストの被害者とも知らず、一体何人の人がこの世からはじき出されてしまったことか。恐ろしい国に生きてきたことに唖然となる。(写真は散歩の途中で見かけた庭先の素敵な花)

社会面には、建設業の下請け孫受け業者と従業員のカウントされない被害の一端が記事となって出ている。この国の産業構造は、日の当たる製造業に奉仕する2重3重の下請け業が現業労働の大半を引き受けることになっている。リスクが大きくなればなるほど、下…

 週刊朝日に長期連載された「夏目房之介の学問」を精選して1冊の本にした漫画入り傑作デキゴトロジー『夏目房之介の学問』作者・夏目房之介+週刊朝日(発行・朝日新聞社)

これは昭和57年9月の週刊朝日で連載が始まり、100回を越える(何回まで行ったか不明)長期連載の人気漫画コラムの精選集。 漫画に独特の見識を持つ古くからの敬愛する友人に「面白い天才漫画家のとびっきりの仕事」として紹介された。最初はその良さが…

 現代の詩人「川崎洋」(中央公論社)日本語を駆使して幅広いとしか言いようのない沢山の仕事をやり遂げて昨年10月21日に鬼籍に入られた詩人を遅まきながら追悼

昨日、ユーモア溢れる川崎洋さんの監修の2冊の本を話題にしていて、知り合いから昨年になくなったことを指摘され、愕然となった。まったく気づかなかった。ショックだった。 日本語の使い方が凄くていねいで、感受性が鋭いのに受け止め方がやさしく、若い頃…

 『クレーの絵本』パウル・クレー+谷川俊太郎(講談社)

素晴らしい絵本にして画集、そして詩集でもある。 この本を手にした回数は、数え切れない。私の蔵書の中で最も多く眺めた一冊。薄い本なので何ページかなと思ってページを見ようとしたら何とページがない。代わりにクレーの絵の表題の一部に紛れ込んで絵の番…

 漫画家の永島慎二が心不全のため死去、67歳。60年から70年代にかけて活躍した漫画家。

当時の漫画好きの若者達は、彼のセンスの良い独特のコマ作りにあこがれた。くどくなくシンプルな線が叙情を喚起した。余白の多い文章のような素朴でいて洗練されたタッチ。劇画が隆盛を極めていた当時、ちょっと劇画から横にずれたような彼の描く漫画は、実…

 アスベストの健康被害の実態、死者177名。(今日の朝日新聞)発症者の職業は様々。国は公害病に認定し早急な対策が急務 あなたの周りからもきっと見つかるアスベスト!(写真は今朝の散歩で見つけたアジサイの花、中が本当の花)

先月の終わり頃から知る人ぞ知る危険な発ガン性物質アスベストの健康被害がマスコミで報じられ、連鎖反応のように次々と健康被害が掘り起こされ紙上をにぎわわせている。いままで表面化していなかったアスベスト健康被害の恐ろしい本当の実態が明らかになっ…

 「ブルータワー」石田 衣良 著(徳間書店)9.11に触発されたと言うファンタジー小説?スピード感溢れて面白く読めるが女性像が貧困なのがもったいないかな

この著者の「池袋ウェストゲートパーク」のシリーズが大好きで、最近はハードカバーで買うようにしていた作家。文体の切れ味がよく、説明がもたもたせず、現代の若者の風俗に詳しいらしく、昔若者だった私にも楽しくよめる人だったので、3年ぶりの待望の長…

 蟻―ウェルベル・コレクション①(角川文庫)奇想天外な蟻の世界をめぐるホラーファンタジー小説

私はもともと虫を踏んで楽しむような性格ではない。気づいたら出来るだけ踏まないように気をつけるほうだ。どんな昆虫も猛毒を持つものでなければ、普通にもつこともできる。だが、この本を読んでから、昆虫を見る目が少し変わったような気がする。とりわけ…

 NASAの彗星探査機の子機、彗星の核への衝突に成功の報道に触発されて(写真は世界中に配信された衝撃的な映像の1枚)

新聞報道によれば、すい星探査機「ディープ・インパクト」から放出された衝撃弾(インパクター)が、日本時間の7月4日午後2時50分過ぎ、地球から約1億3000万キロの距離でテンペル第1彗星の核に命中したという。宇宙規模の壮大な科学実験の成功の…

 「裁判官はなぜ誤るのか」秋山賢三著(岩波新書)  この国の司法制度がはらむ問題点を元裁判官の立場から分かりやすく丁寧に説き起こした目から鱗の問題提起の書、心ある人には是非手に取ってもらいたい本

最近、友人が関わっている産業廃棄物関連の地裁判決があったが、判決文の内容もさることながら、その判決を結論付ける論理構成の合理性を欠くこと、常識的な大人とは思えないほど杜撰で、驚きあきれ憤慨したことがあった。公判を何度か傍聴した折にも時々居…

 「加曾利隆の50ccバイク日本一周ツーリング」(下巻 西日本編) 加曾利隆著(交通タイムズ社)84年5月初版発行 64日間19000kmの小さいバイクの大きな旅(昨日の続き)

子どもの頃、最初に乗ったバイクは、あの永遠の名車スーパーカブだった。父親のものだったが、14歳の誕生日を待って免許を取り、始めはふらふらしたがすぐに慣れて、どこまでも走っても疲れない快適さと、自転車には出せないスピード感がたまらなかった。…

 「加曾利隆の50ccバイク日本一周ツーリング」 加曾利隆著(交通タイムズ社)84年5月初版発行 64日間19000kmの小さいバイクの大きな旅(上巻ー東日本編)

もともと旅行記の類は大好きで、本屋で見つけるとつい買ってしまう方なので、強い印象を受けた旅行記は数多い。自転車、列車、車、徒歩、旅行手段なんであれ、旅人の目で、つまり新鮮な感覚で物事を見聞きした報告は、その旅が困難であればあるほど、スリル…

 (写真は公園の一角で咲いていた樹木の花、名前は分からない)公園では、今日は何時になく走っている人が多かった。

曇り空で気温も20度前後の感じ、暑くないので7時頃に家を出て南に向かう。総数1万人近くが暮らす住宅街の東側を通り抜けるつもりだったが、少し住宅街に紛れ込むことにした。通りによってはひろい庭に丹精込めた草花を育てている家がある。夏の花が咲き出し…

 モーツアルト「魔笛」「モスクワ室内歌劇場管弦楽団」公演

2年ほど前、「モスクワ室内歌劇場管弦楽団」の公演でモーツアルトの「ドン・ジョバンニ」を鑑賞、驚くほど斬新な演出と高い音楽性の魅せられたので、今回、同じ歌劇場管弦楽団の「魔笛」公演を見てきた。 まず、今日の公演の感想を、演出全体は、魔笛には奇…