武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 かつてのツーリングライダーの陰のバイブル、野宿を緊急避難の手段からストイックな旅の方法論にまで高めたロングセラー。安直なアウトドアライフから抜け出したいと思っている人にお勧めの一冊

toumeioj32005-07-25

 奥付が昭和59年5月13刷となっているので84年頃のある日、この本を手にしたのだと思う。今から20年ほど前の話になって恐縮だが、楽しい本なのであえて紹介してみよう。思い起こせば、ちょうどこの頃からアウトドアなる言葉が使われるようになり、キャンプを多くの人が楽しみ始めたような気がする。登山のためのキャンプ、移動生活のためのキャンプとは違い、キャンプそのものを娯楽として楽しむようになった時期。もう少し前にずれるかもしれないが今となっては記憶が定かではない。
 この本には、そんな時代の風潮からすこし斜めにずれたような主張(ポリシー)があって、そこがユニークで楽しかった。移動の手段は、車ではなくでバイク、しかも機動力豊かなオフロードバイク。楽しむための荷物を必要最小限に切り詰め、かなりストイックな貧乏旅行を、微に入り細を穿って、具体的に提案する。大したことのない食べ物が不思議と美味しそうに見えてくるところがえらい。腹を空かせれば何でもうまいのと同じ気分にさせられる奇妙な説得力をもっている。
 実際には相当の貧乏旅行なのだが、わびしさを感じさせないような一種の美学にまで高められた矜持を背景に、センチメンタルな叙情性を漂わせる文体で、あまり品のよくない泥臭いユーモアをこめたエピソードを織り交ぜ、イラストと写真を多用してすこぶる分かりやすい記述が続く。随所に体験談を織り込み、上滑りしないように配慮してある。安上がりだということは、簡単に手が届くということなので、なんとか出来そうだという気にすぐにさせてくれる。それが、この本のセールスポイント。
 以前の私など、読みながら半分自分で野宿を体験しているような気分に簡単になったものだ。だが、実際にやってみると分かるが、ソロの野宿ツーリングは、楽しいだけではない相当にマゾヒスティックな世界。度胸と根性がなければ、あまりお勧めできるタイプの旅行ではない。内容にもう少し詳しく触れるために目次を引用してみよう。

プロローグ「旅立ち」
何故野宿か
何故モーターサイクルか 
第1章「どこにどうやってテントを張るか」
第2章「めしをつくろう」
第3章「寝る」
第4章「朝」
第5章「旅の一日」
第6章「何を特っていこうか」
第7章「ライディングウエア」
第8章「どんなバイクで旅に出ようか」
第9章「何をどうやって積むか」
第10章「季節、条件による装備の違い」
第11章「いろんな野宿があった」
エピローグ「出発」       
あとがき             

 どの項目を開いても、大してお金もかかりそうにないし(実際にほとんどかからない)イラストも写真も豊富で眺めていて楽しく、少し冒険好きの若者だったら、一度はやってみようという気にさせられるはず。20年以上前の装備だから、今となっては古くなったものもあるが、基本的には余り変わってはいない。
 今でもこの国は、少し人里を離れれば、驚くほど自然が濃くなる所はいっぱいある。いや、むしろ徹底して過疎が進んでしまった結果、人里を離れると幽界のような廃屋に出会い、恐ろしいような場所に出くわすことがある。風変わりな旅をしてみたいかつての若者と本当の現在進行形の若者、今でもこの本は入手できるようなので、是非、読んでみることをお薦めする。