武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

  デビュー10年、着実にレパートリーの幅を広げ表現の奥行きを増し、多彩な楽曲をギターの音色にのせて軽やかに好演 アコースティックギター表現の上限に到達か

toumeioj32005-07-26

 台風7号の関東上陸のその時間、村治佳織さんのギターリサイタルを聴きに行った。次第に風雨が強まっていたが、中ホールの中には全く外の音は伝わってこない。プログラムの紙を持ちかえる音さえ雑音に聞こえてしまうほどの静かな空間、その空間に村治佳織の完全にアコースティックなギターの音だけが響いていた。
 靴音高くステージに登場した第1印象は、意外と身長があるのに軽く驚いた。CDなどの写真の印象から勝手に小柄で華奢な女性かなと思っていたが、デビュー10年、たくましく華やかなレディーとして成長を遂げた姿が見栄えがして立派だった。前半のステージは、スペイン風の赤いロングスカートを翻し、なかなか見事な立ち居振る舞い。
 前半のステージは、最近のCD『トランスフォーメーション』からの曲だそうだが、トーク抜きで、知名度の高い曲と、聴きなれない曲を交互に、鮮やかなソロ演奏。弦楽器で弦を弾くタイプの楽器の宿命だと思うが、音を出した瞬間で音作りが終わって、その後、音はどんどん減衰していってやがて聞こえなくなってしまう。減衰を引き伸ばすことは出来ず、次の音をかぶせてゆくしかない。従って、次々と音を繰りだし、音のアラベスクを織り上げるしかない。村治佳織さんの音は、一音一音の粒が見事にそろっていて、細かい真珠の粒が指先から飛び出してくるような感じを受けた。あるいはどんどん小さくなってゆく音のシャボン玉が、次々と美しい音の玉となって宙に飛び出し、ゆっくりしぼみ消えてゆくような感じ。前半のプログラムは次の通り。

1、テオドラキス作曲 「エピダフィオス」より(不死の水/わが星は消えて/五月の口/きみは窓辺にたたずんでいた)
2、タレガ作曲 アルハンブラ宮殿の思い出
3、ロドリーゴ作曲 ファンダンゴ
4、ラヴェル/ディアンス(編曲) 亡き王女の為のパヴァーヌ
5、デイアンス作曲 サウダージ 第3番

 休憩をはさんで後半のステージは、村治佳織トークを交えたギター演奏、マイクを準備したのでどんな声の女性かわくわくして待っていたら、予想どおり大柄な女性特有のしっとりした落ち着いた柔らかな低音。話し方も落ち着いていて、極めて端正なきちんとした日本語、ニュースキャスターになっても通用しそうな知的ないい感じの話し方だった。武満徹編曲のビートルズナンバーをまじえ、なかなか目先の変わった多彩な選曲、しかも、どの曲を弾いても危なげのない落ち着いた余裕さえ感じさせる立派な演奏、ギター奏者として油がのってきているという感じを受けた。後半のプログラムは次の通り。

6、吉松隆作曲 水色スカラー前奏曲/間奏曲A/ダンス/間奏曲B/ロンド)
7、武満徹(編曲) 「ギターのための12の歌」より イエスタデイ/ミッシェル
8、ブレヴイル作曲 ファンタジー
9、サテイ/クレンジヤンス(編曲) ジムノペディ 第1番
10、サティ/パークニング(編曲) ジムノペディ 第3番
11、武満徹(編曲) 「ギターのための12の歌」より ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア/ヘイ・ジュード

 ただし、ホールの広さからすると完全なアコースティックなギター演奏の表現力のほぼ限界だろう。何らかの音響的な補助装置を使えば、もっとダイナミックレンジが広がり、演奏のスケールが大きくなるのに、素人考えながら惜しい気がした。