武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

  子どもに対する紫外線の健康影響をテーマにしたおそらく唯一の啓蒙書 ふんだんにイラストを使った分かりやすい問題提起の書、子育て中の方と教育関係者に

toumeioj32005-07-27

 台風7号が北の海で消滅し、この国は台風一過の言葉どおり、降り注ぐ強烈な太陽光線にあぶられ、気温が急上昇、各地で真夏日にあえいだ。ところで、この国の小中学校には、水泳用のプールが標準装備されているので恐らく今日など、全国の小中学校で水泳教室が開かれたことと思う。日中の最も太陽光線の強い時間帯に、子ども達は元気に太陽光線を全身に<被爆>した訳だ。あえて、恐ろしげな被爆という言葉を使ったのには理由がある。
 2003年の6月に環境省は「紫外線保健指導マニュアル」というパンフレットを作成、全国の保健所や都道府県に配布した。同省の以下のURL(http://www.env.go.jp/chemi/uv/uv_manual.html)には今も、同マニュアルが掲載され、紫外線の有害性に対する情報提供を続けている。
 また、すべての妊婦に発行される母子手帳からも1998年から赤ちゃんの「日光浴」の言葉が削除され「外気浴」に変更されている。このささやかな変更の裏に、実は紫外線に対する医学の認識の大きな変化がある。紫外線には、健康に有益な性質と有害な性質があり、有害な性質の研究が進み、次第に無視できなくなってきたという背景がある。
 古い医学、古い教育、古い常識には、古今一貫して変わらない真実も多いが、ずいぶんと変わってきている偏見、誤謬も少なくない。今や「真っ黒に日焼けした元気な子」いう言葉は、不用意に紫外線を浴びすぎた将来の健康影響が懸念される子という意味になったといってよいが、この紫外線に対する新しい知識を知らない大人があまりにも多い。
 この本は、この紫外線一本に的をしぼり、しかも、その健康被害の影響を子どもに置いた、あまり類をみない貴重な紫外線の啓蒙書。第1章「なぜ、いま、紫外線が問題なの?」と第2章「知っていますか?紫外線のほんとうの怖さ」で、①子どもと紫外線の健康影響の問題、②紫外線と皮膚がんの関係、③オゾンホールと紫外線被害増大の関係、④日焼けと日光火傷の違い、⑤UVBとUVAの違い、⑥紫外線と活性酸素や免疫機能などとの関係、などなど、見開き2ページを一まとまりとして、イラストを交え分かりやすく紫外線情報を解説している。もう少し詳しいデータをと思うところもあるが、この程度が分かりやすい。
 続いて第3章「子どもに紫外線はいらない!」と題して、①子どもに必要な紫外線は曇りの日に浴びる量で十分なこと、②ビタミンDは食事から取る分で十分なこと、③骨を丈夫にするには適度な運動とバランスの取れた食事で達成できること、健康に何らかのプラス効果を期待して太陽光線を浴びる意味がほとんどないことが情報として提供されている。
 習慣というか、固定観念というか、「外に出て遊ぶ元気な子」というフレーズには、健康面から見てほとんど意味がなく、むしろリスクの方が大きいことに大人はいつになったら気づくのだろうか。子ども達が外に出たがらないのには、もっともな理由があるというのに。
 第4章「どうやって紫外線から体を守る?」、第5章「日焼けをしてしまったら・・・」、第6章「食事の取り方で免疫力アップ!」などで、具体的な対応策を詳しく提案している。関心のある人には、有益な情報も多いのではないかと思った。
 紫外線の被爆量は、紫外線の強度×被爆時間。この本によれば、生涯の紫外線被爆の半分を18歳までの子ども時代に浴びてしまうのだという。皮膚の老化の最大の原因は、年齢ではなくて紫外線影響。サングラスがほしいと感じるほど強烈な紫外線を全身で浴びることの愚かしさについて、少しでも気づいてもらいたくてこの本をを紹介した。知らないということは、時には、本当に恐ろしいことだと思って・・・。