武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 この日のプログラムは、前半が新鋭フルート奏者高木綾子さんがソロをとるモーツアルトのフルート協奏曲第1番ト長調K.313、後半は若杉弘指揮の東京交響楽団によるマーラーの交響曲第5番嬰ハ短調。(これは昨日の7/23に公演されたもの)(画像はネット上で見つけた若杉さんだが、かなり以前のお姿のよう。現在はもう少しお年をめして、渋く枯れた感じがただよい、それだけに飛び上がらんばかりのダイナミックな指揮ぶりに一層こちらを熱くさせるものがあった)

toumeioj32005-07-24

 この日の午前中には若杉弘さんのリハーサルの様子が一部の会員に公開されるという特典があった。残念ながら参加できなかったが、粋な企画と感心させられた。さらに、開演の30分ほど前には、会場のホールで入場者には、弦楽四重奏のミニコンサートのサービスがあった。真夏の一日、こうゆう洒落たサービスがコンサートに付属して企画されることを大いに歓迎したい。熱演に疲れきった演奏者に形式的にアンコールを半ば強制するような習慣よりも、どんなに聴く側を楽しませることか。主催者側の工夫を凝らしたアイディアに拍手を送りたい。
 さて、コンサートの前半のフルート協奏曲、人数を減らしたやや小規模なオーケストラの演奏に乗って、高木綾子さんのフルートが鮮やかに舞い上がる。鮮明で透き通った美しい音色にうっとりした。指使いの細かいところを何のストレスも感じさせずに、軽やかに吹ききってゆく。第2楽章のアダージョのような緩やかなところを情緒連綿と演奏するよりも、第1楽章や第3楽章のような軽快な楽章をスピードに乗って明るく駆け抜けてゆくところがお似合い。高木さんの若さがいい意味で光り輝いていると感じる演奏だった。
 お年を召しておじいさんのような感じの若杉弘さんと高木さんがアイコンタクトを取りながら、曲を合わせてゆくシーン、祖父とお孫さんのやり取りを見るようで、視覚的にとてもほほえましかった。(若杉さんゴメンナサイ)真意は、二人の息の合ったやり取りがすごく気に入ったと言いたのです。
 15分の休憩をおいて、本日のメインプログラム、若杉弘指揮によるマーラーの第5番。CDでは、小林研一郎指揮のマーラー5番がダイナミックでしかもしんみり叙情的でかなり気に入っていたが、この日の演奏は、さらに一回りの上を行くダイナミズム、広いホールの空間を切り裂き、押し上げ、駆け巡る、素晴らしい快演だった。10数年前にも東京交響楽団を指揮する若杉弘を聴いたことがあるが、若杉弘は、オーケストラのメンバー全員を精一杯頑張らせるのが得意な指揮者のようだ。東京交響楽団が、持てる実力全開で曲に挑む。見ていて、聴いていて、いっそ痛快なくらい音が前へ前へと飛び出してくる。変化球なしの直球勝負といえば分かっていただけるだろうか。適度に空調が効いているはずなのに、若杉弘さんは楽章の合間にハンカチで汗を拭き、第3楽章の途中からは、滴り落ちる汗を拭きながらの熱演、オーケストラのメンバーは、あの様子を見せられたらそれは燃えますよ。パワフルな熱演があるから、その対比で葬送行進曲のようなやや暗い美しいメロディーがため息が出るように美しく聴こえたし、愛妻アルマ・マリア・シンドラーへの愛を表現する第4楽章の伸び広がり、抱きすくめるような濃厚なアダージョが美しく際立って聴こえてきたのだと思った。
 次第に演奏者が乗ってきて身体が動き出し、音が沸きあがり、噴出し、沸騰する様子が、全く素晴らしかった。マーラーの5番が、精一杯に熱演するにふさわしいパワフルな曲だと言うことを教えられた。盛大な拍手を受けたメンバーの晴れやかでぐったり疲れた様子が印象に残った。アンコールはとても無理な様子だった。この後の冷たいビールがさぞ美味しいのではないかと、つい余計なことを考えてしまった。
 余計なことかもしれないが、5番の第4楽章の途中で、かなりの揺れを感じる地震があった。指揮中の若杉さんには分からなかったらしく、少しの変化もなかったが椅子に座っているオーケストラの何名かが天井のマイクの揺れに一瞬視線を送った。帰ってニュースを見ると可なりの地震だったことがわかった。各地で震度5を記録していた。地震に揺られながら生演奏を聴くなんて、めったにないことだと思ったので付け加えることにした。