武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 「ブルータワー」石田 衣良 著(徳間書店)9.11に触発されたと言うファンタジー小説?スピード感溢れて面白く読めるが女性像が貧困なのがもったいないかな

toumeioj32005-07-09

 この著者の「池袋ウェストゲートパーク」のシリーズが大好きで、最近はハードカバーで買うようにしていた作家。文体の切れ味がよく、説明がもたもたせず、現代の若者の風俗に詳しいらしく、昔若者だった私にも楽しくよめる人だったので、3年ぶりの待望の長編という宣伝文句にのせられて読んでみました。
 ①一読、面白く書くことについては、さすが、最後まで一気に読ませる。死を宣告された悪性脳腫瘍に苦しむ主人公が、21世紀と22世紀の間を、意識だけスリップさせて、人類を破滅から救出するというお話。荒唐無稽を絵に描いたようなお話なので、法螺を法螺で終わらせない何らかの工夫が読みどころとなる。
 ②舞台装置に相当に凝った様子が、いたるところでうかがえる。その点では、かなり良くできていると思う。荒唐無稽なお話で大切なのは、人物の設定。この点の評価で、この作品の評価は大きく変わる気がした。主人公瀬野周司(43歳)の人間性の問題。作者が意図して狙ったらしいが主人公の男がすこぶる平凡。こんな男、どんな女性だって見捨てるぞと言う感じ。これはこれでいいのかもしれない。問題は、主人公にからむ21世紀と22世紀の二人の女性、今だってこんなステレオタイプの女性いませんよ、というほどメルヘンチック。平凡な男と、ありえないほど奥行きのない女性が描くラヴストーリー、この点ははっきり言って減点。
 ③未来社会という舞台装置に懲りすぎたのか、役者達にやや難点があるように感じた。凝った未来社会の仕掛けは書いてしまうと興ざめなので読んでのお楽しみ。私は十分に楽しませてもらいました。ここがこの本の読ませどころ、セールスポイントなのでしょう。9.11からこんな虚構世界を紡ぎだすなんて、力のある人ですよ。私としては、好きな「池袋ウェストゲートパーク」シリーズに全力投球して、このシリーズを大きく育てあげてほしい気がするが、別の新作も期待する気になった。この著者は、今のところ、けっこう出来不出来のある作品を書いている。いい時は凄くいいので、次回を期待。