武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

追悼

 亡き知人を偲ぶ惜別譜

亡くなった古い友人を偲ぶ集まりがあった。 老年期にさしかかった仲間が集まり 故人の思い出を肴に酒を酌み交わした。 ぼやけてきた記憶を手探りしながら 褐色に色あせた昔話を掘り起こした。 記憶の焦点が合わなくて忘却の淵で溺れかけ 配られた一編の詩を…

 『杉山平一全詩集上下』 (編集工房ノア1997/2)

かつての四季派から誕生した畢生の抒情詩人 杉山平一氏が、5月下旬に亡くなられた。現代における叙情詩のあり方を、飽くなき執念で追求され、最後にはライト・バース(深刻な内容をあえて小粋なスタイルで表現した作品群)とでも呼ぶしかないような、軽妙な…

 「裁判官の書斎」4部作のお勧め―異色裁判官、倉田卓次氏のご逝去を悼んで

先月の30日に亡くなられた元東京高裁判事倉田卓次氏の随筆集、「裁判官の書斎」シリーズの愛読者として、司法界から生まれた希有の読書家にして、卓越した文筆家であった故人の遺徳をしのび、数ある著作の一端をご紹介してみたい。 『裁判官の書斎』(勁草書…

 『ブンとフン』 井上ひさし著 (発行初版朝日ソノラマ1970/1/10、新潮文庫ほか)

昨日の朝、TVのニュースで井上ひさしさんが亡くなったことを知った。お芝居や小説、エッセイなどでずいぶんと楽しませてもらった。惜しい人をなくした。ほかには井上さんのようなものを書ける人がいないだけに、この空白は埋めようがない。 多方面に活躍し…

 『日本古代文学史(初版)』 西郷信綱著 (岩波全書1951/10/15第1刷)

また一人、戦後のわが国をリードした存在感のある識者が亡くなった。国文学の世界では主流ではなかったかもしれないが、古典を学ぼうとする多くの若者たちを引きつけ強い影響を与えずにおかなかった国文学の改革者、西郷信綱氏が9月25日92歳で逝去された。 …

 『都市と星』アーサー・C・クラーク著 山高昭訳 (ハヤカラ文庫SF)

数日前の新聞でアーサー・C・クラーク氏の死去が報道されていた。現役最高のSF作家の一人と評価していた人だけに悄然となった。実現していないテクノロジーの未来を創造することは、実際に頭をひねってみるといかに難しいことかよく分かるが、科学技術の未…

 西村寿行の死去を悼む

新聞を読んでいたら、作家の西村寿行さんが死去された旨の訃報を目にした。何度か豊かな物語性にひかれて夢中になって愛読した時期があった。動物がからむ話に、魅力的なものが多かった。よほどの動物好きだった人のようで、動物を軸にした短編に印象深い作…

 現代詩に目を開かされた「氷った焔」の詩人、清岡卓行さん死去

新聞の社会面をひらくとすうっと視界に浮かび上がってくる見出しがあるのが不思議だ。殺伐とした世相を反映して大きな見出しが躍っていても、お悔やみの記事がなぜか目に飛び込んできた。詩人で小説家の清岡卓行さんが83歳で6月3日に亡くなったとの記事…

 茨木のり子さんのご冥福を祈って

今朝の新聞を開いてすぐにその記事に目が行った。新聞を開いて、いやおうもなく見出しがこちらに飛び込んでくる時はろくなことがない。朝日新聞の訃報を読んでも、亡くなったことしか分からなかった。パソコンを起動して関連記事を探した。ほとんど似たり寄…

 『ソバ屋で憩う−悦楽の名店ガイド101−』杉浦日向子とソ連編著(新潮文庫)

杉浦日向子さんが今月の22日、下咽頭(いんとう)がんで亡くなったとの報、46歳だったという。何ともったいない、この世界がまた少しさびしく、つまらなくなってしまった。 杉浦日向子さんが東京の京橋の呉服屋さんに産まれたのは、1958年。この国の…

 『山のパンセ』串田孫一著(岩波文庫)

7月8日に随筆家の串田孫一さんが老衰のため亡くなられたとの訃報あり。力まない透明感のある文体で山岳エッセイを執筆、よく拾い読みさせてもらった名文家 いつ頃のことだったか忘れたが信州をのんびりツーリングしていた時、とある道路わきの登山口で休憩し…

 現代の詩人「川崎洋」(中央公論社)日本語を駆使して幅広いとしか言いようのない沢山の仕事をやり遂げて昨年10月21日に鬼籍に入られた詩人を遅まきながら追悼

昨日、ユーモア溢れる川崎洋さんの監修の2冊の本を話題にしていて、知り合いから昨年になくなったことを指摘され、愕然となった。まったく気づかなかった。ショックだった。 日本語の使い方が凄くていねいで、感受性が鋭いのに受け止め方がやさしく、若い頃…

 漫画家の永島慎二が心不全のため死去、67歳。60年から70年代にかけて活躍した漫画家。

当時の漫画好きの若者達は、彼のセンスの良い独特のコマ作りにあこがれた。くどくなくシンプルな線が叙情を喚起した。余白の多い文章のような素朴でいて洗練されたタッチ。劇画が隆盛を極めていた当時、ちょっと劇画から横にずれたような彼の描く漫画は、実…

 「ヤマザキ、天皇を撃て!」皇居パチンコ事件陳述書 奥崎謙三著(三一書房)ニューギニア戦線で奇跡的に生き残った元日本軍兵士、6月16日死去の報道に触発されて

戦後60年、これまで何回「戦後は終わった」と言う声を聞いたことか。「これで本当に戦後が終わった」という言い方もある。私にとってもある種の感慨をもって戦後は終わったと感じる出来事もあった。すでに終わっているんだなあ、と感じてぞっとすることも…

 「嘔吐」ジャン・ポール サルトル著(人文書院) 今月が生誕100年との記事に触発されて

若かった頃、ほとんどの書店にこの人文書院のサルトル全集が必ず何冊かは置いてあった。実存主義に興味がなくても手を伸ばせば自然に触れると言う感じで、たいがい数冊は読んだか見たかしたことのある人が多かった時代もあったのだ。古い話でゴメンナサイ。 …

 「プラテーロとわたし」秋・冬編 J・R・ヒメネス著 伊藤武好/百合子訳 長新太・画 (理論社フォア文庫) 昨日の続き

長新太さんの訃報をきっかけに引っ張り出してきたヒメネスの散文詩集、プラテーロ。10年以上前になるが、近代のスペイン文学史が気になり、調べてみようとして困惑したことを思い出した。言語の普及割合と比較して、スペイン語圏からの文学作品の紹介が不…

 絵本作家の長新太さん死去、また稀有な才能が鬼籍へ 「プラテーロとわたし」春・夏編 J・R・ヒメネス・作 伊藤武好/百合子・訳 長新太・画(理論社アテネ文庫)を再読

6月25日、喉のがんで長新太さんが77歳でなくなった。長新太さんを絵本作家と呼んでいいかどうか。漫画家、挿絵画家、絵本作家、レッテルはいろいろ貼れると思うが、その画風はたやすく真似が出来るようなものではなかった。独特の個性があり、どの絵を…

 「大人のお洒落」石津謙介著(朝日新聞社) 男のファッションについての見識が面白く、深みとかっこよさに満ちていて、何かと参考にさせてもらっていたファッションの先人

大人の立ち振舞い方を話題にして人を惹きつけ、頷かせることの出来た偉大な趣味人、服飾評論家の石津謙介さんが5月24日にご逝去。94歳。遺志により献体し葬儀は行わないとのこと。最後までかっこいいとしか言いようがない。自らの生と死についてある種…

 戦後最大の歌人にして前衛短歌の巨星墜つ、塚本邦雄氏の死去を悼む 「定本塚本邦雄湊合歌集」(文芸春秋)

去る6月9日、歌人の塚本邦雄が亡くなったとの報、84歳だったという。また一人、同時代の偉大な先人、言語表現と時代の感性のお手本にしてきた方が、深い河の向こうに渡られた。何という寂寥、気持ちのどこかで静かに発生する微細だが鋭い痛み、喪失感。…

 作家の倉橋由美子死去

倉橋由美子が6月10日、拡張型心筋症で亡くなったとの報。69歳だそう、まだ若い。倉橋由美子の文体と屈折した批評意識が老齢期をどのように描くか、期待する価値があったのに残念。 最近はほとんど読んでいなかった人なので、本棚に残っているものを調べ…