武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『ブンとフン』 井上ひさし著 (発行初版朝日ソノラマ1970/1/10、新潮文庫ほか)


 昨日の朝、TVのニュースで井上ひさしさんが亡くなったことを知った。お芝居や小説、エッセイなどでずいぶんと楽しませてもらった。惜しい人をなくした。ほかには井上さんのようなものを書ける人がいないだけに、この空白は埋めようがない。
 多方面に活躍した方だったが、とりわけギャグとナンセンスの感覚においては、群を抜く存在だった。個人的には、戦後ナンセンス文学の最高傑作の一つに数えている「ブントフン」を読み直し、その面白さにあらためて驚愕した。
 井上さんにとって処女作となる小説作品が、ギャグと言葉遊びに満ちあふれたナンセンス文学だったと言うことはとても意味深い。その後、「これほどに徹底したナンセンス作品を書けていないのが情けない」という意味の著者自身の言葉が残っているほどに、これは至難の哄笑文学である。
 面白くて笑い転げていると、笑いの中の鋭い棘のような風刺が、風俗や世相に突き刺さり、いつの間にか日頃の鬱憤が晴れるような気がするほどに痛快である。本当に惜しい人を亡くした。ご冥福をお祈りしたい。