武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 西村寿行の死去を悼む

 新聞を読んでいたら、作家の西村寿行さんが死去された旨の訃報を目にした。何度か豊かな物語性にひかれて夢中になって愛読した時期があった。動物がからむ話に、魅力的なものが多かった。よほどの動物好きだった人のようで、動物を軸にした短編に印象深い作品が多かった。

 西村寿行さんのノンフィクション作品に「世界新動物記」という不思議な本があり、気に入っていたので紹介したい。動物学者の本ではないので、動物についての体系的な知識は得られないが、徹底した動物面白エピソード集と言ったら言いか、とにかく意外なエピソード満載の動物豆知識集。長年の動物好きが、折に触れて集めたエピソードを、思い余って吐露したと言う感じのする、読んでいるといつの間にか動物園にでも行ってみたくなる一冊。あくまでもエピソードを語ったもので、物語でも短編でもない。動物をめぐる博物誌といったらいいかもしれない。
 西村寿行さんのバイオレンス物に見られる人間関係の血みどろでドロドロしたところは皆無なので、小学校の図書館に置いても、心配要らない。動物図鑑にあきた動物好きの子どもが喜びそうな、珍しいエピソードに溢れている。西村寿行さんの本質は、こんな動物に目を輝かせている少年のような純真にあるのかもしれない。物語作家として一世を風靡した作家の楽しいノンフィクション作品として、西村寿行ファン以外の人にもお薦めしたい。
 取り上げている動物は、以下の通り。

アライグマ イノシシ イルカ ウミガメ オオカミ オオサンショウウオ オオトカゲ オランウータン カバ カメレオン カワウソ カンガルー キツネ キリン クジャク コウノトリ コブハクチョウ ゴリラ サイ ジャコウネコ スカンク ゾウ ダチョウ タヌキ タンチョウヅル チンパンジー チーター チンチラ デンキウナギ 卜キ トド トナカイ トムソンガゼル トラ ニシキヘビ ニホンカモシカ ニホングマ ニホンザル ニホンシカ ハイエナ バイソン バク ハゲワシ ビーバー ピューマ ヒョウ ペリカン ペンギン ホッキョクグマ マングース マントヒヒ ムササビ ヤマアラシ ライオン ラクダ リカオン ワニ

 ネットで各紙の追悼記事を探したが、サンケイスポーツの記事が、一番熱っぽい訃報を載せていたので全文引用しておこう。

ベストセラー作家の西村寿行さん死去…大胆な暴力描写で人気<サンケイスポーツ - 2007年8月26日>
 「君よ憤怒の河を渉れ」などのバイオレンス小説や「世界新動物記」などの動物小説で多くのベストセラーを生んだ作家の西村寿行(にしむら・じゅこう、本名としゆき)さんが23日、肝不全のため東京都内で死去していたことが26日、分かった。76歳。昭和55年には長者番付の作家部門1位になるなど、幅広いジャンルをこなす人気作家として、一時代を築いた。
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 「ハードロマン」と呼ばれる大胆な暴力描写を盛り込んだ復讐(ふくしゅう)劇で多くのファンを魅了し、昭和40〜50年代を中心に活躍した人気作家が、逝った。
 西村さんは昭和5年、高松市生まれ。兄は時代小説作家の西村望氏。業界紙記者、漁師、タクシー運転手など職を転々とし、東京・新宿で活魚料理店を経営していた昭和44年、「犬鷲」がオール読物新人賞佳作となった。39歳の“遅咲き”のデビューとなった。
 新宿では「暴力で泣いている人たちが山ほどいる」と知り、作風の基礎を築く。以後、社会派ミステリー「瀬戸内殺人海流」「安楽死」などの推理小説を創作した。
 一方で「滅びゆく動物の悲しさも描きたい」として、「犬笛」「黄金の犬」など野生動物の生態や人と自然の交流を描いた短編なども次々と発表した。
 「推理小説では人間の赤裸々な欲望が書ききれない」。新境地を目指す西村さんは、昭和50年の「君よ憤怒の河を渉れ」で、冒険小説の要素と大胆な暴力描写を盛り込んだ「ハードロマン」と呼ばれる新ジャンルを確立。破天荒さの中に詩情がのぞくバイオレンス・ノベルのヒットを次々と飛ばした。
 さらに医療問題などを扱った社会派作品から時代小説まで幅広く執筆。森村誠一さん、半村良さんらとともに「三村」と呼ばれ、40〜50年代を代表する人気作家となった。一時は月に1000枚近くというハイペースで書き続け、55年に作家部門の長者番付のトップに立った。
 「君よ−」は高倉健さん主演で映画になるなど、映像化された作品も多い。55年には産経新聞に「大都会の中に潜む欲望と狂気」を描いた「虚空の舞い」を連載した。
 西村さんは生前、「『ノラクロ』や『鞍馬天狗』で育ったボクにとって、小説は面白くなくてはならないもの。小説には冒険と女が必要なんだ」と小説への情熱を語っていた。葬儀・告別式は近親者のみで行う。

 西村寿行の紹介では、ウィキペディアが良くまとまっているので、詳しく知りたい人は下記へ行って見てください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E6%9D%91%E5%AF%BF%E8%A1%8C