武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 2月第1週に手にした本(30〜5)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

◎大森澄著『駐在巡査』(木犀書房1973/8)*珍しい巡査にして詩人の大森澄さんが出した古い古い短編創作集、佐野という名の山村に配属された駐在巡査を視点人物にした、随想風の素朴な味わいのある小品が4編。ミステリィのジャンルにある警察小説とは違い、巡査の人柄と周辺村落の情景描写に力点をおいたオーソドックスな短編が収録されている。こういう短編を書かずにはいられなかった巡査がいたということが私にはとても面白い気がした。大森澄さんの詩と随筆、短編を集めて一冊の本を編んでみたいと思った。
谷川俊太郎著『東京バラード、それから』(幻戯書房2011/10)*既刊の詩篇谷川俊太郎自身が撮った白黒写真に、書き下ろしの<思い出リミックス>という連作詩を配して構成した写真詩集。谷川俊太郎の詩を、こういう風にして読み返すのも一興という感じ。
向田邦子著『向田邦子全集第一巻』(文藝春秋1987/6)*3冊分のエッセイ集を収録した全集の1巻目、名作「父の詫び状」に目を通すのは何回目だろう、読む度にアレッと気付くことがあり、上手いなあと感心する。向田邦子の感性に触れると、何故かこちらの気分が豊かになる気がするから不思議である。向田邦子全集全3巻は我が書庫の宝である。
まど・みちお著『まど・みちお詩集』(ハルキ文庫1998/4)*まど・みちおさんの膨大な詩篇から動物、植物、人間、物、自然などの5つのテーマに分けて、代表的な秀作傑作をセレクトした詩選集。どなたが編集したのか分からないが、上手く本当に良い作品だけを掬いあげており、まど・みちおさんの詩の輝きが焦点を結び文庫の形になっていっそう眩しさを増している、見事な手腕である。まど・みちおへのベストな入門書となっている。
天野忠著『長い夜の牧歌/老いについての五十片』(書肆山田1987/6)*老年期の心境が鮮やかに切り取られて、鮮明に定着された傑作詩集。この詩人は、老年期にはいって飛躍的に表現の奥行きと透明感を高め、至芸の域に到達した。水際だった言葉に配列に呆れるほかない。この詩集をめくってゆくと、老人として生きる喜びと悲しみがクッキリと見える気がする。
天野忠著『詩集/古い動物』(れんが書房新社1983/6)*天野さんの80年代前半の詩篇をあつめた老年期の詩集、ほろ苦い随想を読むような、渋い味わいの詩篇が愉しめる。「長い夜の牧歌」と比べると、少し若かったせいか老年期の準備運動をしているような雰囲気がある。
紀田順一郎著『紀田順一郎著作集/第6巻』(三一書房1997/5)*著者の2冊の名著を1冊にまとめたもの、近代日本の著名な事典を編纂した人物評伝「知の職人たち」と、一冊の本に生涯を捧げた超個性的な人物評伝集。どんな短編集を読むよりも読み応えのある評伝集に仕上がっている。