武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 2月第2週に手にした本(6〜12)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

江原恵著『台所の美味学』(朝日新聞社1983/5)*料理研究家辰巳浜子に興味を持って何冊か読んでいて、評伝の著者として江原恵に行き当たった。70年代から80年代末頃まで、精力的に現代料理文化批判を展開していたが、90年代以降すっかり活動を止めてしまった。一体どうしたのだろうか。本書は、料理評論家江原さんにしては珍しい、おそらく唯一のレシピ集。やはり理論先行ではあるが、主張を裏付けるレシピが予想通り地味なところが面白い。何点か作ってみたい料理が見つかった。
◎大野新著『大野新全詩集』(砂子屋書房2011/6)*一昨年に亡くなった関西で活躍していた詩人の全集、「家」という詩集でH氏賞を受賞したことがある。自分を取り巻く血縁と私的な周辺世界を独特な感性で掘り下げて、独自の表現世界を築いた。変に重苦しいフレーズが続くので、大冊を読み進むのに時間がかかりそう。
平井呈一著『真夜中の檻』(創元推理文庫2000/9)*諸外国の幻想文学の紹介者にして翻訳者、平井呈一氏の没後10年に出された作品集、二編の翻訳ではない創作が読める。滑らかで端正な日本語で綴られた和製ホラーの透きとおったエロティシズムが嬉しい。翻訳に附された解説文などもまとめられており、平井呈一入門のベスト。
◎冨水明著『可愛いヤモリと暮らす本』(マリン企画2008/4)*暖かくなるとわが家に出没するニホンヤモリの生態について知りたくて手にした。期待していたニホンヤモリについては4ページしか載っていなかったが、想像していた以上に世界中のヤモリがたくさん出てきて驚いた。
セツコ・山田著『セツコ・山田の猫三昧1・2』(ペットライフ社1995/11、2000/4)*犬と猫を多頭飼いしている漫画家のペット漫画エッセイ集。10匹前後の猫を、それぞれの個体差を識別して描き分けてあるので、自ずからトラブルは多発し、ほのぼのとしながら引き込まれてしまう。一匹しか猫を飼っていない人に、わが家の猫を相対化するためにお勧めしてみたい。
ウンベルト・エーコ、トマス・A・シビーオク編/小池滋監訳『三人の記号 デュパン、ホームズ、パース』(東京図書1990/4)*記号論の立場からの、古典的推理小説の名探偵の推理分析、難しくて頭が痛くなりそうなところもあるけれど、読者を酔わせる古典的名推理が、<意味するもの>と<意味されるもの>とに整理され、推理の合理性を吟味される10本の知的エッセイを読むと、改めてホームズの物語の生産性に吃驚させられる。古典の古典たる所以だろうか。
三浦敬三著『98歳、元気の秘密』(祥伝社2002/4)*以前にレビューしたことのある「100歳、元気の秘密」とほぼ同じ内容の98歳バージョン、改めて故三浦敬三さんの超高齢健康法に脱帽、誰でも簡単に出来ることではない。この本を読むと、元気になるために何かやってみようという気にさせられる。高齢者向けの推薦図書である。
江原恵著『カレーライスの話/文化論と歴史』(三一新書1983/8)*料理文化研究家によるカレーライス蘊蓄本。今は亡き私の母方の祖母は生涯かたくなにカレーライスを自分の料理のレパートリーに加えることを拒んでいたことを思い出した、明治生まれのモダン好きがカレー文化に抵抗感を抱いた理由が少し分かる気がした。カレーライス登場は、日本料理史の画期的な出来事だということが分かる。