武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 2月第3週に手にした本(13〜19)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

岩村暢子著『家族の勝手でしょ!/写真274枚で見る食卓の喜劇』(新潮社2010/2)*あまりにも露骨で秀逸な書名に引かれて本書を手にした。子育て中の核家族の食卓を、写真を基にして紹介しているので、他所の家の内情を覗き見るような違和感を伴うが、写真が持つ特有のリアリティに引き込まれて一気に最後まで読まされてしまった。現代の核家族にとって食事を作り続けることのいかに大変かをしみじみと実感した。
まど・みちお著『いのちのうた』(ハルキ文庫2011/7)*児童文学研究者の谷悦子さんが編んだ、まど・みち傑作詩集。膨大な詩篇の中から135編を選び、テーマに沿って6章に整理してあり、最後に編者の解説があって分かりやすい。まど・みちおさんの世界が、すっきりとまとまって見えてくるので、こういう試みはもっとあればいい。
天野忠著『天野忠詩集/日本現代詩文庫11』(土曜美術社1983/11)*編集と解説が大野新による天野忠さんの詩選集、戦前と昭和28年までの詩集は大胆にもカットし、「重たい手」以降の詩集から作品を選んでいる。思い切りの良い適切な判断だという気がする。目が届く範囲の私的な生活の周辺を透徹した眼で掘り下げてゆくと、ここまで深遠な境地に到達できるという見本。数編採用されているエッセイも大変に味わい深い。詩作に生涯を捧げた人でなければこうはゆかない。
◎中村俊定校注『芭蕉俳句集』(岩波文庫1979/1)*前半の本文の方を通読するのは何回目だろうか、旅に関わる句の方が質が高い、感覚が新鮮になるためだろう。表現者として努めて旅に出ていたのは、自分の感性を錆び付かせないためだったのかもしれない。今も昔も、日常を日々新たに生きるのなま易しいことではない。
柳原和子著『百万回の永訣/がん再発日記』(中公文庫2009/3)*初発の癌治療と懸命の代替医療が功を奏して幸運にも5年延命した段階で、試みていた食事対策などをすべて止めてしまっていたとある。癌細胞は日々体内で生まれており、複合した悪条件が重なると発症につながるという常識を著者は知らなかったのだろうか。中年以降は身体もくたびれてきており、日々の生活そのもの癌予防に他ならない。再発に対する嘆きが深いのはよく分かる。自分の心情に巻き込むように表現を重ねているので、感情移入すると読むのが辛いし、突き放してしまうと読む気がしなくなり、読者として戸惑いながら読んだ。
遠藤哲夫著『汁かけめし快食学』(ちくま文庫2004/7)*庶民の食文化を<汁かけご飯>を中心にして、地理的歴史的に、雑多な資料をあさり、意図的に雑文風に追求した本。もう少し整理して書けばと思わないではなかったが、<ぶっかけ飯>風に雑然としたまま話題を提供するのが本書の意図だ思い、そのまま愉しんだ。文体自体が庶民的で愉しかった。