武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 9月第4週に手にした本(19〜25)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

草森紳一著『随筆本が崩れる』(文春新書2005/10)*蔵書、野球、煙草をテーマにした3本の比較的長い随筆が収められている。蔵書家とは聞いていたが、天井まで届く膨大な蔵書が崩れている写真を見て吃驚、他人事ではない気がした。最後に置かれた「禁煙夜話」の開き直り方は潔さに欠け、いただけない。
柳原和子著『がん生還者たち−病から生まれ出づるもの/がん患者学3』(中公文庫2004/5)*がん患者学の続編、正編にもまして、女性患者へのアンケート集計やアメリカの患者への取材など、がん患者としての当事者性に視座を据えて、癌という現代病を多面的捉え返そうとした力作。今や癌という病は、生存期間が長くなってきているので、一種の強いられた晩年と化しており、終末期の生き方のステージとなっているような気がする。癌であろうとなかろうと「人の致死率は100%」なのだから。
◎井上太郎著『モーツアルト・ガイドブック−新しい聴き方・楽しみ方』(ちくま新書1995/2)*同じ本の2冊目、以前から持っていたのが書き込みやアンダーラインと読み込みで背割れしてボロボロになったので買い換えた次第。著者の文体の実直で誠実な調子が気に入っている。手頃なモーツアルト・ガイドブックのベスト。
こうの史代著『この世界の片隅に(前編)(後編)』(双葉社2011/7)*昭和18年から21年まで、呉市に暮らす庶民一家の日常を淡々と描いており、当時の生活の質感がしみじみと伝わってくる。暖かみのある愛らしい絵のタッチ、戦争の悲惨さに踏み込んだ幾つかの場面の迫力に息を飲む。周到な取材が行き届いた作者渾身の力作である。
メルヴィル・ディヴィスン・ポースト著/菊池光訳『アブナー伯父の事件簿』(創元推理文庫1978/1)*<シャーロック・ホームズのライバルたち>というシリーズの一冊、悪徳弁護士ランドルフ・メイスンのシリーズ同様、主人公のキャラクター造形が骨太い、西部開拓時代を背景にした殺人事件の処理がモノクロ西部劇ぽくて、懐かしいような渋い味わいがある。1911〜1918年に書かれた1世紀前の古い推理小説と言うよりも事件解決小説、ミステリィの歴史の奥に埋もれてしまうのは惜しい佳作。
柴田錬三郎著『岡っ引どぶ』(講談社文庫2006/6)*この物語の主人公「どぶ」は、物語を推進する視点人物でありながら狂言回しの役に徹しており、事件解決への糸口を探り当てる探偵役は、どぶが仕える盲目の与力、行為者と推理者を分けたところがこのシリーズの肝、異色の安楽椅子探偵物である。筋立てが複雑になり、短編よりも中編に近い味わいとなった。こういう捕物帖があってもいい。
柳原和子著『告知されたその日からはじめる/私のがん養生ごはん』(主婦の友社2003/4)*食べ物と癌発生の因果関係と同じように、癌患者の食べ物をどう考えるかは、やっかいな難問、きちんとした情報を期待して本書を手にしたのだが、食べ物関連の内容は1/3程度、ほとんどが著者の癌闘病の回想記、以前の著作よりもまとまりのよい総括的な記述、癌発生のメカニズムがあまりに総合的なので、栄養学からのアプローチに期待したこと自体無理だったのかもしれない。紹介されているレシピは、衒いのないヘルシーメニュー。