武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 12月第1週に手にした本(28〜4)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

◎高橋英郎著『モーツアルトで一日が始まり一日が終わる』(講談社+α文庫1997/8)*モーツアルト書簡全集の訳者の一人の手になる喜びに満ちたモーツアルト随想集、モーツアルトを語る喜びを文体に滲ませた軽快な語り口が、この書を何度も手に取らせる、私にとっての名著。巻頭の病床で聴くモーツアルトが印象的、何人もの方から入院中の病床で聴くモーツアルトが格別心に沁みるという話を聞いたことがある。この著者の自在な語り口がとても心地よい。
森博嗣著『すべてがFになる』(講談社文庫1998/12)*久しぶりに飛行機の機内で、この傑作ミステリィを読み返し、切れ味の良い文体と物語の仕掛けを堪能した。物語の中心に見事に立つ真賀田四季なる悪人像の造形が傑出しており、著者の創造した犯罪者群像の中でも最も気に入っている一人、二人の探偵役の影が少し薄いのも気に入っている、長続きする秘訣だろう。この国のミステリィに新たな地平を切り開いた一冊である。
井上夢人著『おかしな二人/岡嶋二人盛衰記』(講談社文庫1995/12)*藤子不二雄エラリー・クイーンのようにコンビを組み共作で作品を発表してきた<岡嶋二人>の一人が、二人がいかにして推理小説を書くようになったか、どのようにして推理小説を書いてきたか、その手の内を洗いざらいさらけ出した、何とも興味深い行状記。ほかのどの作家の回想録よりも作品造りのノウハウを惜しげもなく公開しているところが読みどころ、一人で書いている作家にはここまで自分をさらけ出すのは難しい。
岡嶋二人著『チョコレートゲーム』(講談社文庫1988/7)*上記の共作作家の日本推理作家教会協会賞受賞作、某大学付属の中学校3年の教室を舞台にした連続殺人事件を描いた作品。事件と推理の組み立てが巧みに出来ているが、どの登場人物も比較的存在感が薄く、読み心地が軽くなるように仕上がっている。中学生の連続殺人事件を扱って軽い読み味というのは、貴重な味である。