武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 1月第2週に手にした本(9〜15)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

◎大森澄著『詩集ぐさい』(木犀書房1974/6)*亡くなった奥さんのための鎮魂譜、長い巡査人生の折々に書きためた詩の中から、家庭内の一コマを主題にした人情味あふれる叙情詩をまとめた詩集、戦後に書かれた愛の詩集のベスト10に加えたいと思ったほど静かに深く読む者の心を打つ。入手困難なのが惜しい。
久世光彦著『触れもせで/向田邦子との二十年』(講談社1992/9)*亡き向田邦子との仕事上の付き合いをベースにした回想録をかねた鎮魂譜。どんなに互いを刺激し合った良い仕事仲間だったかを語りながら、何時しか著者の向田邦子への友愛の吐露のような内容に深まって行く。亡き人に向かっての切々とした随筆だけに、しんみりと読む者の胸を打つ。著者が言う<向田邦子の不幸>の実態が最後まではっきりしないために不思議な読後感が残った。
久世光彦著『向田邦子との二十年』(ちくま文庫2009/4)*同じ著者の<触れもせで>が面白かったので手にしてみたら、「触れもせで」と「夢あたたかき」の2著を合わせて1冊にしたものだった。向田邦子入門として読むんだったら、こちらの方をお勧めしたい。
山本義隆著『福島の原発事故をめぐって/いくつか学び考えたこと』(みずず書房2011/8)*近年、西洋科学史に関して目を瞠るような著作を次々とだして、評判を呼んだ著者の、フクシマ3.11を受けて書かれた警世の書、この国の原発問題が孕んでいた深層と、科学史から見た原子力科学のファシズム的有り様を、こんなに分かりやすく語った本は他にない。これを読んむと、これまで見えなかったものが見えてきます。
島田荘司著『暗闇坂の人喰いの木』(講談社文庫1994/6)*サービス精神満点の読み味抜群のホラー風味の本格ミステリィ、時間と空間を鮮やかに切り取って構造化してのける筋立てが見事、読むにつれて深まる謎と恐怖感も良いが、物語の中心に屹立する巨大楠(くすのき)の造形が素晴らしい。御手洗潔シリーズ中で逸することの出来ない力作。
菊地成孔/大谷能生著『アフロ・ディズニー2/MJ没後の世界』(文藝春秋2010/9)*先週読んで面白かったのでアフロ・ディズニーの続編を手に取ってみた。全編の無責任とも誇大妄想とも言える刺激的な20世紀文化史論に比べると、関連する各界の専門家との対談は、発言に専門家としての責任があるせいか、飛翔力にやや乏しく、分かりやすくなった分 刺激が少なくなった。どちらかではなく正続2冊をセットにして読む方がバランスが取れる気がした。