武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 1月第3週に手にした本(16〜22)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

◎丸本淑生著『システム自炊法/シングルライフの健康は、こう守る』(中公文庫1990/4)*この人の料理本は何冊も手にしたが、レシピにしたがって実際に作ってみたけれど、書いてあるほどには美味しくはなくて何度かがっかりしたことがある。文章表現がが先行するタイプの料理本だった、栄養についての考え方は、随分参考にさせてもらった。長生きされるものと思っていたが、74歳で食道癌で亡くなられた、飲み過ぎだったのだろうか。本書は単身者用の栄養指南書、実践するには相当のエネルギーが必要そう、面倒くさがり屋には無理だろう。実践するのに多大なエネルギーを必要とする料理法は、欠陥がある気がするがどうだろう。
色川大吉著『ユーラシア大陸思索行』(中公文庫1976/2)*1971年6月から11月までの約5ヶ月をかけて、ユーラシア大陸を4万キロ、キャンピングカーでドライブした記録、週の内5日間はキャンプ生活という相当に過酷な旅行だったようだが、野外生活についての記述はほとんどなく、文明史的な考察がとめどもなく溢れてきて、なかなかに面白い。旅の見聞に触発されて出てくる著者の豊穣な文明史的考察が、当時の知識人の教養を反映していて何とも興味深い旅行記である。
本橋成一著『ふたりの画家 丸木位里丸木俊の世界/本橋成一写真録』(晶文社1987/4)*興味のある写真家本橋成一と画家丸木位里丸木俊がクロスした本だったので引かれて入手した。今は亡き丸木夫妻の創作の姿が、力強いモノクロ写真で定着されており、二人の対話録とあわせて、貴重な記録となっている。ここまで二人の作画世界に侵入をはたした写真家のあり方も凄い。
山田昌弘著『家族ペット/ダンナよりもペットが大切!?』(文春文庫2007/6)*現代日本社会におけるペットについて、社会学の視点から書かれた本。家族の人間関係にしめるペットの位置を探り、ペットの有り様から現代家族のあり方をとらえ返そうとする試みでもある。ペットを飼っていない私が読んでもなかなかに愉しめたので、ペット好きにはお勧めしたい。
◎鈴木虎雄注釈『李長吉歌詩集(上・下)』(岩波文庫1961/5・6)*中唐の幻想詩人、李賀の全詩集、想像力の飛躍が時には現実を突き抜けて、吃驚するような超現実世界を展開する。少しずつ かねてから親しんできたが、驚きの感覚なしには読めない愉しい漢詩である。
向田邦子著『向田邦子全集第三巻』(文藝春秋1987/8)*人々の生活の中のさり気ない動作を、鮮やかに切り抜いて、人物の心情を見事に描写する手腕に、感心しながら読んでいる。情景が鮮明に目に浮かぶ文体の職人芸に舌を巻く、文体を支えている記憶力が凄い。新作が読めない人だから、一気に読むのではなく、少しずつ愉しんでいきたい。
◎向田和子著『向田邦子の青春』(ネスコ/文藝春秋1999/4)*9歳年下の3女による長女向田邦子の回想録、向田邦子を読むと<昭和の家族像>について考えさせられるが、ホームドラマ全盛の時代の人気脚本家として生きた姉の、年下の家族から長女をとらえ返した優しさに満ちた向田邦子の青春アルバムである。思いの外写真が多いので、ファンには必携かもしれない。
◎向田和子著『向田邦子の恋文』(新潮文庫2005/8)*63年11月から64年2月までの僅か4ヶ月間にN氏宛に出された5通の手紙と その間のN氏の日記という、万が一にも公表されることを予想していなかった私的文書の公開。向田邦子が体験した一身上の過酷な<地獄>が見えてくる。自死にいたるN氏を労り支えている向田の健気さに引き込まれ、彼女の文章の背後にある深い闇が浮かび上がってくる。他人の秘密を覗くようで ドキドキする。
菊地成孔著『歌舞伎町のミッドナイト・フットボール/世界の9年間と、新宿コマ劇場裏の6日間』(小学館2004/8)*96年から2004年までの9年間に書かれた多様なエッセイをまとめて、2004年4月時点での自作解説をつけ、加筆訂正をほどこして1冊の本にまとめあげたもの。菊地成孔という人物に興味のある人向け。