武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 1月第1週に手にした本(30〜8)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

菊地成孔/大谷能生著『アフロ・ディズニー/エイゼンシュテインから「オタク=黒人」まで』(文藝春秋2009/8)*映画論と音楽論、ファッション論と発達理論などを それこそクロスオーバー的に越境交錯させながら自在に論じた慶応大学における一般教養の講義録。流れに乗ってお話について行くと、随所でおやっと目を瞠るような洞察に行き当たり、知的な興奮を掻き立てられて何とも愉しい。延々と続く即興演奏を聴いているような不思議な楽しみを味わった。じっくりと練り上げられた考察ではないので、繰り返し読む気にはなれないが、一回限りの知的興奮剤としてはなかなかの効き目が期待できる力作。
◎菅原光二著『モズのくらし』(あかね書房1989/4)*全100巻別冊4巻にも達する<科学のアルバム>シリーズは、多くの小学校図書館の人気者だった。自然や科学が好きな子ども達の図書の時間の貴重な愛読書だった。残念なことに日本の児童図書は理科に弱かった。それが新シリーズの発行とともに古くなったのか、古書店の児童書コーナーに安価でならぶようになった。これは身近な猛禽類とでも呼ぶべきモズの生態をやさしく解説した写真図鑑。中でもカッコウの<たく卵>に遭遇して、懸命にカッコウの雛を育てる貴重な映像が目を引く。勝手なイメージが先行しがちなモズの実態に迫る貴重な1冊としてお勧めしたい。
◎マンブローズ・ビアス著/筒井康隆訳『筒井版悪魔の辞典<完全補注>』(講談社2002/10)*三冊目の翻訳、全部丹念に読み比べたわけではないが、笑える項目はそれほど多くない、読むための辞典としては退屈な所が多かった。ビアスが暮らしていたアメリカとの文化的なギャップのせいかもしれない。
山之口洋著『オルガニスト』(新潮社1998/12)*日本ファンタジーノベル大賞を受賞した西洋音楽の修行を背景としたSFミステリィ、全編に溢れるバッハのオルガン作品への憧憬と、オルガンという楽器の蘊蓄が読ませる。ミステリィのプロットは弱いが、SF的な仕掛けが巧妙で、最後まで気持ち良くついて行けた。
山之口洋著『オルガニスト』(新潮文庫2001/9)*単行本のどこが気に入らなかったのか、視点人物の人称を、三人称から一人称の変換、つじつまを合わせために何カ所か変更されている。解説者の瀬名さんはこの変更を青春小説という視点から高く評価しているが、肝心のミステリィ的プロットの弱点はそのままなので個人的には不満が残った。この本の読みどころはバッハとオルガンへの情熱にあるので、私としてはどちらでも構わない。
ラヴクラフトコリン・ウィルソン著/荒俣宏編『ラヴクラフト恐怖の宇宙史』(角川ホラー文庫1993/7)*コリン・ウィルソンの1編以外はすべてラヴクラフトの作品、かつて創土社から2巻まで出たラヴクラフト全集の荒俣宏訳が載録されているのが有り難い。読みやすい日本語訳がこうして復活したのは嬉しい。荒俣宏の前後の解説とあわせて、絶好のラヴクラフト入門書となっている。
◎向笠智恵子著『日本の朝ごはん』(新潮文庫1998/10)*この国の各地のいろいろなスタイルの朝食を、その周辺の事情を含めて取材レポートした、現代における朝ごはん風土記とでも言えばいいか。なにをどのように毎朝食べるか、ある意味でそれはその人の現在の生き方の反映になっているところが面白い。著者による対象への過剰なまでの肩入れを通して見えてくる各地の朝の風景はなかなか愉しかった。
◎倍賞智恵子著『お兄ちゃん』(廣済堂1997/8)*97年に寅さんこと渥美清が亡くなったことを受けて書かれた、無二の共演者による回想録の形をとった鎮魂の書。制作にかかわった方々による<男はつらいよ>の性格付けなどの回顧も参考になるし、初期の頃に山田洋次監督以外の二人の監督が映画づくりに参加した経緯などとても面白かった。