武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 8月第4週に手にした本(20〜26)

*残暑とはいえ、余りにも長い猛暑、水不足に弱そうな野菜に水やりを続けている。老年にさしかかった人体も高温と水不足に弱そうなので、冷房と水の補給を普段以上に心がけている。早朝の散歩に出ると、さすがに雑木林を抜けてくる微風には涼感が含まれていて心地よい。焼けつく午後は午睡にかぎる。

歴史学研究会編『日本歴史年表増補版』(岩波書店1993/11)*66年に刊行された最初の「日本歴史年表」を長らく(半世紀以上)愛用してきたが、さすがに古くなってきたので、すでに旧版になり安価になった本書に買い換えた。歴史小説を読むとき周辺の時代を手探りするために、歴史年表を傍らに置いている。古い版にはなかった詳細な索引が付録に付いたのが嬉しい。

◎ウィリアム・ブルーイット著/岩木正恵訳『極北の動物誌』(新潮社2002/9)*米国によるアラスカ核実験計画阻止のために、一時期 研究者生涯を妨害されて苦境を強いられた北極圏の生態学者による 啓蒙的な動物誌の傑作。極地に暮らす動植物の視点で描かれた十編の自然叙事詩から、極地に暮らす生き物の息づかいが鮮明に浮かび上がる。生態系とは実際にどんなモノなのか、これほど分かりやすく具体的に分からせてくれる本を他に知らない。名著である。

◎ジョージ・ヘイ編/コリン・ウィルソン序文/大瀧啓裕訳『魔道書ネクロノミコン』(学研文庫2000/9)*茹だるような猛暑には、つい怪奇幻想文学に気持ちが傾く。ラヴクラフトの怪奇物語が生み出した<ネクロノミコン>のイメージを 勝手に一人歩きさせるマニアックな世界。レトリックの限りを尽くして、魔術世界を仮構する幻想遊びが愉しい。怖いもの見たさの少年期に帰る気がするが、子どもにお勧めできる本ではない。

渋谷望著『魂の労働/ネオリベラリズムの権力論』(青土社2003/11)*権力と労働、この二つの基礎概念は、生涯わたしの頭を離れることはない。権力論は世界の構造を意味し、労働論は人間世界の原動力にあたる。本書は若手社会学者による最新の帝国主義論として読める。いつの時代においても、労働の本質を追求することは、社会の根幹を見つめることの他ならない。力作である。