武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 8月第5週に手にした本(27〜2)

*日曜日に一雨あって、猛暑が一休みしたけれど、まだまだ残暑は続きそう。夕方になると、水不足を嫌う作物に水やりをしている農業者の姿をよく見かけるようになった。スプリンクラーの設備をもたない畑は大変、今週になって上水道にかかわる渇水対策がニュースに浮上してきた、雨が偉大な気象現象だということが身に沁みる。

◎淵上正幸著『ヨーロッパ建築案内1』(TOTO出版1998/11)*いまや建築ガイドの名著シリーズに育ったTOTO出版のロングセラー、選りすぐった建物の画像と詳細かつ簡潔な解説文の名調子が良い、建築物を鑑賞対象として愉しめる人なら手ばなせなくなる。装丁も本文レイアウトも凝りに凝っており、手にとって頁を捲るだけでワクワクしてくる。読んでいるとすぐにでも現地に行きたくなるのが難点かな(笑)。 (右の画像 カバーの窓には全部四角い穴があいている)

山田風太郎著『警視庁草紙/下』(文藝春秋1975/3)*山田風太郎の明治を舞台とした時代小説の第一作目の下巻、この巻になって得意とする伝奇物語の味付けが濃厚となり、明治維新の風景が鮮やかに動き出して興趣がつきない。歴史的有名人が次々と登場して、意外な役回りを演ずるのが何とも愉しい。歴史的な常識を刺激する知的読み物。

◎谷川俊太朗著『トロムソコラージュ』(新潮社2009/9)*6編の長編詩を集めた比較的最近の詩集、著者のあとがきにあるように、一定の筋立てのようなものを構成の枠組みにしていて、短編集を読むような味わいがある。磨き抜かれたフレーズの味わいはさすが、旺盛な創作力には脱帽。

◎ジャン・アメリイ著/竹内豊治訳『老化論/反抗と諦念』(法政大学出版部1977/8)*老化現象を時間、身体、社会、文明、死から疎外される現象として捉え返そうとした思索的エッセイ集、訳文がすっきりしない難点はあるが、老化現象を思索の対象にして議論して愉しむという、マニアックの愉しみ方があることを示唆してくれる有益な本。アウシュビッツから生還した稀少な知識人だったが自殺。

今森光彦著『里山の少年』(新潮文庫2010/5)*滋賀県の琵琶湖周辺を舞台にした里山をめぐる自然エッセイ、武蔵野の里山と似ているところもあれば、ところ変わればと思うところもあって愉しい。表題にあるように、回想を交えて少年の目線に立とうとして書かれているが、里山が懐かしく心癒されるのは、まさに大人に成りきった証左。収録されている著者の写真が美しい。