武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 9月第1週に手にした本(3〜9)

*少し暑さが納まったかなと思うと、また厳しい残暑がぶり返す日々が続いている。仲間とやっている農園の野菜たちが水不足で相当に参っている、秋の収穫がどうなるか心配だ。ただでさえ持続するのが難しくなってきた集中力が暑さのためにずたずた、気ままな好奇心も枯れかけてきた、困ったことだ。

佐々木譲著『幻影シネマ館』(マガジンハウス2008/12)*この本の目次を見て吃驚、かなり多くの映画を見てきたはずなのに一本も見た映画がない。ショックだったのと お気に入りの著者だったので手にした。読んでみて分かったことだが、これは架空の映画に対する映画評のスタイルで書かれた才気溢れる映画論集。スタニスワフ・レムの「完全な真空」は存在しない本の書評集だったが、これはその映画版、著者の半端ではない映画への愛着と、ひねりの利いた創作精神に脱帽。宇野亜紀良のイラストが虚構に見事な彩りをそえている。映画への愛着がこれほど溢れた本を他に知らない。

山田風太郎著『幻燈辻馬車』(文藝春秋1976/8)*前作の「警視庁草子」に続く明治ものの2作目、今で言うと都心を走る流しのタクシーのような辻馬車を物語の装置に据えて、警視庁の密偵自由民権運動の闘士たちとの暗闘を描いた伝奇小説。歴史上の人物が次々と馬車を利用し明治の街の風物と合わせて、興味津々の物語を展開する。今思うと70年代の学生反乱の世相に、クールにやや虚無的に風太郎は伝奇物語を介して反応していたことに改めて気がついた。

金子光晴著『女たちへのエレジー金子光晴全集2)』(中央公論社1975/10)*1949年刊行の詩集、一部の作品をのぞいて日中戦争が始まる以前の作品を集めたもの、著者の東南アジア放浪のころの、現地における人情や風物のスケッチのような小品が多い。著者特有のヒューマンな感性が随所に溢れていて、何度読み返しても、穏やかな気分になる。

◎茂出木心護著『洋食や』(中公文庫1980/6)*洋食屋「たいめんけん」のシェフとして有名な著者の軽い随想集、気の向くままに綴った明治生まれの料理人の思い出話を集めてあり、料理以外の話題が多いので、ぱらぱらと気になるところだけ拾い読みした。洋食のレシピや料理のコツを期待すると肩すかしをくうことになる。