武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 12月第3〜5週に手にした本(12〜29)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

◎デボラ・エリス著/森内寿美子訳『生きのびるために』(さ・え・ら書房2002/2)*仲間内で毎年12月に開催しているバザーの献品の中から見つけた、<アフガンを生きぬく少女3部作>のうちの1巻目、軽い気持ちで読み出したが内戦中の過酷なアフガンを背景に、健気に懸命に生きる11歳の少女パヴァーナの生き様に思わず引き込まれた。タリバン政権下のカブールの不条理と言っても過言ではない状況に取材が行き届いており、主人公達の日々の息詰まる日々のリアルさは見事。手紙を読んでもらうタリバン兵の一粒の涙が、著者の世界観の奥行きを暗示している。内戦の後遺症や飢餓に苦しむ崩壊国家の遺棄された子ども達へ連想が拡がり、読み終えるのが辛かった。
◎デボラ・エリス著/森内寿美子訳『泥かべの町』(さ・え・ら書房2004/4)*「生きのびるために」の主人公の友達だった少女、アフガン脱出を夢見るショーツィアの、パキスタンにおける過酷な運命の物語。崩壊国家にとどまっても、脱出して難民となっても、待っているのは大人ですら耐え難い過酷な生活。ファンタジーでは決して描くことの出来ない今現在の地球上に存在する想像を絶する悲惨を描いた問題作、子ども向けに子どもを主人公にして描かれたことはとても意義深い。
◎デボラ・エリス著/森内寿美子訳『さすらいの旅/続・生きのびるために』(さ・え・ら書房2005/4)*3作目は、再びアフガンで生きのびるパヴァーナの物語、生きる支えだった父親を失い、生き別れになった母親と姉妹を捜す彷徨の物語。どんなに過酷な状況に陥っても失わない主人公の明るい健気さが、物語を不思議な明るさで満たしているので、何とか最後まで読み進めることが出来る。読後、これまで深く考えることのなかった崩壊国家の、子ども達に気持ちが吸い寄せられる気がした。不況下とはいえ繁栄を謳歌しているこの国の子ども達に、世界へ目を向けるためのプレゼントとして、この3部作は悪くないという気がした。勿論、大人でも十分に読むに値する3冊。
湊かなえ告白』(双葉社2006/8)*一人称の連作短編の型式を巧みに使いこなしたサスペンス、読み進むに従って謎が膨れあがり、怖さが深まるという見事な構成、本屋大賞に選ばれただけのことはある傑作。
◎リー・W・ラトリッジ著/鷺沢萌訳『猫の贈り物』(講談社文庫2001/8)*猫の日記というスタイルを借りた とある田舎町の群像劇、ホラーとミステリィの味付けもある奇妙な味の物語に仕上がっている。
小林信彦著『おかしな男/渥美清』(新潮文庫2000/8)*喜劇役者 渥美清の実像に限りなく接近した実録風の評伝、抑制された淡々とした文体から、若き日の渥美清が怖いほどリアルに立ち上がってくる。傑作シリーズ「男はつらいよ」の主役を30年以上張り続けたコメディアンの凄さが見事にとらえられている。コメディに対する小林信彦の揺るぎない姿勢から生まれた傑作。
辻井喬著『深夜の読書』(新潮社1982/1)*実業家にして作家兼詩人という珍しい生き方をされている人の、随筆集、読書に触発された文章が多いので、本好きには愉しい。
和田誠著『お楽しみはこれからだ』(文藝春秋1975/6)*洋画好きには堪らない洋画名台詞をめぐる名エッセイ集の1巻目、5巻まで書庫の奥に残っていたのを引っ張り出してきて愉しんだ。洋画の翻訳者の日本語力を再認識した。好きなことに夢中になっている著者の喜び溢れた文章が嬉しい。
山田忠雄主幹『新明解国語辞典第四版特装愛蔵版』(三省堂1990/1)*<新明解さん>という愛称すら生まれた力作国語辞典、Bookoffで安く入手した。この辞典は読んでいて愉しい。語句の解説に過剰な程の踏み込みが随所に見られ、思わず笑ってしまうこともある。ナルホドと、言葉を包むベールが剥がれて、嬉しくなることもある。特装愛蔵版なので、広辞苑に近い大きさだが文字は大きくて読みやすく、高齢者には助かる。携帯するような辞典ではない。この版ほどビアス悪魔の辞典の影響がつよい辞典を他に知らない(笑)。