武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 6月第4週に手にした本(24〜30)

*梅雨の晴れ間に、仲間と共同で耕している畑に、ジャガイモの収穫にいってきた。慣れない新しい耕作地ということと天候の具合もよくなかったので、不作を心配していたが、意外に収穫量が多くうれしい誤算だった。害虫の被害もなく、形のいいジャガイモが多かった。早速自宅に持ち帰り試食してみたら、瑞々しくほくほくして新じゃがの味覚に満足した。栽培したのは、メイクインと男爵とキタアカリ、種類ごとに違う食感を愉しもう。

◎なだいなだ著『アルコール問答』(岩波文庫1998/3)*著者の対話精神にあふれた穏やかな語り口は、アルコール依存症の有り様を、多面的に描き出して余すところがない。アルコール依存症という病気が、資本主義的生産様式とともに発生してきたことの指摘と、スーパーのアルコール飲料売り場の華やかさを思い出し、改めてこの病に時代背景があることを納得した。いつでも誰でも安価に飲めるということの怖さを思い知らされた。止め処ない規制緩和は恐ろしい、すべてが市民の自己コントロールに委ねられている、民は資本の餌食か。有益な再読だった。

古泉迦十著『火蛾』(講談社ノベルス2000/9)*12世紀の中東を背景に、イスラム教の宗教者を登場人物にした、とびっきり異色なミステリィ中篇。どこから生まれてきた発想なのか、SF小説以上に非現実的な物語が、異国趣味たっぷりに展開する。ミステリィの分類では本格派なので、変り種がお好きな人にはお勧めか。

椎名誠選/日本ペンクラブ編『素敵な活字中毒』(集英社文庫1983/9)*<中毒症>と<依存症>を区別してとらえる最近の傾向からすると、本書に登場する皆さんは、どちらかというと<読書依存症>もしくは<書物偏執症>と呼ぶべき方々が混在していて、その病気自慢振りがまことに面白い。まともな市民生活を阻害しているという意味では、病気と呼ばれるにふさわしいその症状の可愛らしいこと、<素敵な>と形容されるにふさわしい方が多かったがそれだけでもないのも面白い。

山田風太郎著『戦中派不戦日記』(講談社文庫1985/8)*昭和20年一年間のこの日記を通して、初めて自分が生まれた年がどんな年であったか、時間できて、すぐれた日記文学の凄さを思い知らされた。連日の空襲に疲弊してゆく、市民生活を文語体で書き留めていった著者の若かりし頃の発想が素晴らしい。ユネスコの世界記憶遺産にふさわしいと個人的には思っている。