武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 6月第3週に手にした本(17〜23)

*ここ数ヶ月、偶然のことなのだろうが、知り合いの訃報が続いており、気が滅入って仕方がない。自分のことを含めて、<すべての生き物の死亡率は100%>と言うのは、先日なくなった古い友人の台詞だった。誰にもこの日が来るのは避けられないが、なぜ今なのか、という納得できない思いがつのる。それほど多くない知り合いが、次々と減ってゆくのは堪らなく辛い。

樋口有介著著『船宿たき川捕物暦』(ちくま文庫2007/8)*岡っ引きと青年剣士にお家騒動と幕府の陰謀に複数の恋愛劇、書きつくされた筈の定番時代小説だけれど、テンポがいいのと江戸の情景描写の配置が小気味よくて、つい引き込まれて一気に読まされてしまった。シリーズの続きも読んでみたい。

◎永瀬清子著『永瀬清子詩集』(思潮社1797/6)*詩を書くことが、生きていることの証であるような、一人の女性の生涯がたどれる、50年近い歳月の詩篇をまとめた詩集。わかりやすいフレーズであるだけに、半世紀、仄かな恋情のような鋭い感受性に揺れ続ける感性の持続が読むものをつらくする。詩のミューズに魅入られた生涯は切ない。

吉村昭著『精神的季節』(講談社1972/9)*著者のあとがきに「はじめての随筆集」とあるが、内容は多岐にわたっており、順番に読んでゆくと著者の揺るぎない発想の出所のようなものがわかってくる。自分の体験をじっくりと確かめ練り上げて、発想の飼育箱のように大事に扱っている手つきが印象深い。作品の背後に横たわる著者の作家としての姿勢が刻み込まれている吉村ファン必携の一冊。

山田風太郎著『戦中派焼け跡日記』(小学館2002/8)*この日記を手にするのは何度目だろう。著者24歳の医学生時代、昭和21年1年間の、この国が焼け跡だらけだった時代の青春の記録。この日記を読んでいると、時代背景もさることながら、まなざしの瑞々しさと張りのある文章から、若かった頃の感触がよみがえってくる。著者の文章の最高水準の文章がここにある。日記文学の傑作である。