武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 11月第4週に手にした本(21〜27)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

池波正太郎著『池波正太郎の銀座日記(全)』(新潮文庫1991/3)*池波正太郎の60歳から67歳までの晩年の日記風随想集、残念なことに日付が<×月×日>となっているので、何時のことなのか分からないが、淡々としたある日の出来事といった記述なのにぐいぐい読ませる。還暦過ぎの日常生活をこのように圧倒的な文体で記述されると思わず目を瞠ってしまう。以前にも読んだことがあるが、またまた引き込まれてしまった。後半になると体力的な衰えと文体の枯れ具合がリアルに伝わってきて、鬼気迫る稀に見る高齢者記録文学の傑作となっている。
◎メイナード・ソロモン著/徳丸吉彦・勝村仁子訳『ベートーヴェン』(岩波書店1993/2)*ベートーヴェンの伝記的な生涯の中で、最も不可解な甥カールをめぐる確執を精神分析の手法で解釈して行くくだりが興味深い、余りにも非音楽的で愕然となる。晩年まで続く苦悩に苛まれ続ける過酷な生涯から、あのように美しい作品を生み出されたのかと思うと何だか辛い。上下で600ページを越えるこの評伝は内実ともに重かった。
小林信彦著『発語訓練』(新潮社1984/5)*小林流ユーモアのチャレンジ精神いっぱいの実験的短編集、カルチャ間のギャップに焦点をあててギャグを生み出す発想が凄い。完成度の高い短編集ではないが、小林信彦ファンには見逃せない一冊。
上野千鶴子著『ケアの社会学/当事者主権の福祉社会』(太田出版2010/8)*社会学者としての上野千鶴子の最も力のはいった仕事の成果がこれだ。相互に依存し合い支え合う人社会の要になっている社会現象を、詳細に厳しく解明した入魂の大著、この国が迎えつつある超高齢社会への心のこもったガイドブックである。内容に比してこの本の価格は安い、たくさん売れてほしい、広く読まれてほしい。機会があったら、改めて内容にふれてみたい。