武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 10月第2週に手にした本(10〜16)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

山下洋輔著『へらさけ犯科帳/山下洋輔エッセイ・コレクション3』(晶文社1998/11)*先週読んだ同じ著者の旅行記が面白かったので、このエッセイ集を手にした。悪ふざけと悪のりをギャグで繋げた冗談エッセイとでも言おうか、際どいジョークを面白がって受け止めてくれる波長の合う仲間がいて、その仲間へのレターを仮構した文体の活きが良い、その仲間に一枚加わった気分で読むと、ページを捲るのがもどかしいほどに面白いが、部外者として読むと詰まらないかもしれない。エッセイの奇才である。
◎中山七里著『おやすみ、ラフマニノフ』(宝島社2010/10)*これも先週読んだ前作<ドビュッシー>が面白かったので続けて手にした。探偵役が同じ岬洋介、背景となる音楽家ラフマニノフ、どうやらシリーズ物に発展しそうな気配である。謎解きのプロットが巧みになり、演奏シーンの盛り上げ方に力がこもるのは前作同様、最低でも3部作まではもっていってほしいと期待する。フィクションではあるが、名曲鑑賞が文章でかくも豊かに出来ることが驚きである。
細川貂々著『ツレがうつになりまして。』(幻冬社文庫2009/9)*身の回りに何人か鬱病と診断される人が出てくるようになった。病と診断されるくらいだから日常生活に著しい障害を来すような症状だと思うが、実態については詳しくは知らなかった。夫婦のどちらかが鬱病になると、多分家庭生活はこうなるのだろうな、と言う様子がつかめる。私小説をまねて言えば私漫画、随想風漫画にしたところが良かった。ツレの鬱をものともしない貂々さんの逞しい漫画家スピリットがいい。
佐野眞一著『日本のゴミ<豊かさの中でモノたちは>』(講談社1993/8)*今からすでに20年近く前になるが、著者の問題意識と徹底した取材が凄い。かつて私は、この本に出会って、現代資本主義の環境への加害性について、初めて深く考えさせられた。以来、何度も手に取り、現代を考えるステップとしてお世話になってきた。現代資本主義批判にして、現代文明批判でもある、本当の意味で警世の書である。いかなるモノも、役割を終えたらゴミになるという宿命から逃れられない、という真実の何と苦いこと。
◎ジム・ロジャーズ著/林康史、林則行訳『大投資家ジム・ロジャーズ世界を行く』(日本経済新聞社1995/10)*世界一周の壮大なオートバイ旅行記であると同時に、有能な投資家の眼で世界を見るということはどういうことかが分かる、旅行記の傑作。故小田実の「なんでも見てやろう」を読んだときに近い興奮を覚えた。観光旅行を、いかにして貧しい知的体験に終わらせないようにしたらいいか、学ぶところが多い。オートバイで風を切って直に世界と触れ合う見えてくるものが違う。
◎メイナード・ソロモン著/石井宏訳『モーツアルト』(新書館1999/7)*モーツアルトは音楽も愉しいが、手紙も愉しい、そしてモーツアルトについて書かれた伝記もまた愉しめる。こんなにも沢山の楽しみを提供してくれるモーツアルトは本当に凄い。本書は数多ある伝記の中でもとりわけ詳細で掘り下げ方も深い、折り紙付きの力作である。父親からの自立と自分の音楽世界の確立を描く前半部の充実ぶりに比類がない。800ページ近い分量を、CDをバックにじっくりと味わう楽しみは格別。