武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 10月第3週に手にした本(17〜23)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

田辺貞之助監修/島津智訳『ラルース/世界ことわざ名言辞典』(角川書店1980/5)*あとがきにラルース版「諺・名言・箴言辞典」を翻訳したとあり、日本と中国のものをカットしたという。子どもの頃、箴言や諺には、何だか智恵が濃縮されているような気がして、気に入ったフレーズを覚えては呟いていたことがある。今思うと変な子どもだった、だが、懐かしい。82年に本書の増補版が出ているので、好評をもって迎えられたのだろう。拾い読みすると鋭いフレーズが時折見つかって愉しい。
堀田善衛著『本屋のみつくろい/私の読書』(筑摩書房1977/4)*広範な関心世界を題材にする敬愛する小説家の読書随筆、半端じゃない乱読家なので親しみを覚える。火災により2度も蔵書が全焼した珍しい体験をお持ちの方だと初めて知った。もし列島全域におよぶ空襲がなかったら、この国の古書の世界はもっと豊かだったかもしれないと、ふと思った。
徳大寺有恒著『間違いだらけのエコカー選び』(海竜社2009/12)*70年代後半から徳さんの<間違いだらけシリーズ>は長らく、車好きな我が家の愛読書だった。車の見方と評価の仕方を、あのシリーズから沢山教わった。少し古くなったが、リーマンショックに端を発したこの国のエコカーブームに、本書は明確な立場から警鐘を鳴らしており、懐かしく読ませてもらった。70歳代に臨みますますお元気な様子にも励まされる。懐かしい徳大寺節が随所にちりばめられている。これだけ広い展望のもとに車を批評できる人は多くない。いつまでも元気でいてほしい。
俵万智著『チョコレート語訳/みだれ髪』(河出書房新社1998/7)*復刻「みだれ髪」を手にして中には難解で解釈に苦しむ歌がいくつもあった。そんな歌をどう処理しているか興味があって読んでみた。面白い試みだとは思うが、さぞ大変だったのではないか、スッキリと変換されていて思わず膝を打つ作もあるが、苦渋のあとが滲むものも散見する。前半の3章が本書の対象、後半の3章が「みだれ髪2」として出ているようなので、そちらも読んでみたくなった。
◎セイヤー著/エリオット・フォーブス校訂/大築邦雄訳『ベートーヴェンの生涯<上>』(音楽之友社1971/10)*ベートーヴェンの音楽は文句なく素晴らしいが、その伝記的生涯もまた非常に面白い。長らく誤謬と混乱に彩られていたベートーヴェンの生涯を、確かな資料に基づいて、詳細な年譜を編むようにして、生涯をかけて調べ上げた著者の情熱に圧倒される。この著者の仕事によって、小説の主人公か時代小説の登場人物のようだったベートーヴェンが、確かな実在の人物として像を結ぶようになった。大部なこれを訳した人の情熱にも拍手を送りたい。
◎大島秀利著『アスベスト/広がる被害』(岩波新書2011/7)*2006年のクボタ・アスベスト・ショック時の洪水のような大報道のあと、次第にアスベスト報道は尻窄みになり、東北大震災以降、深刻なアスベスト被害の報道をあまり見なくなった。今後50年程度続くと言われている悲惨なアスベスト公害を整理して、問題の深刻さを忘れないために、本書はどの家庭にも1冊置かれていい良書だ。発症してしまったら余命がいくばくもない難病の原因物質が、世界的には今もなおアスベストが商品として流通していることを覚えておこう。そして極少量ながら今、国内のどこにいても大気中にアスベストが浮遊していることを忘れてはなるまい。暴露して40年経過して発症するということは、アスベストの被害は退職者に集中するという指摘は恐ろしい。