武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 10月第1週に手にした本(3〜9)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

新崎盛暉/村上有慶/目崎茂和/梅田正己/仲地哲夫共著『沖縄修学旅行第3版』(高文研2005/1)*修学旅行で沖縄へゆく高校生の事前学習のために書かれたガイドブック、これまでに作られたどんな観光用ガイドブックよりも沖縄のことがよく分かる傑作ガイドブック。沖縄を旅行していても見えてこないモノが見えてくるようになる。内容は、沖縄戦基地問題で約半分、続いて自然と歴史そして暮らし、当然と言えば当然な内容、Amazonに中古品が1円で出ています。
新崎盛暉/謝花直美/松元剛/前泊博盛/亀山統一/仲宗根将二/大田静男共著『観光コースでない沖縄第四版』(高文研2008/6)*「沖縄修学旅行」の大人版、普通の<享楽的>な観光ガイドブックに違和感をもつ沖縄の関係者が執筆したアンチ観光ガイド。沖縄戦基地問題が、全体の3/5の分量を占め、全編が沖縄が置かれている問題状況を赤裸々に語ることに費やされており、深く沖縄の現状を理解するための貴重な手引き書である。沖縄から本当の日本が見えてきます。
◎大城将保/目崎茂和共著『修学旅行のための沖縄案内』(高文研2006/11)*高文研が発行している沖縄ガイドとしては一番ソフトで一般的、全ページがQ&Aスタイルで統一されており、分かりやすくなっているがやや物足りないか。
◎大崎紀夫著『オーイ、旅−野宿派の隠れた名所案内』(北宋社1998/6)*サブタイトルに惹かれて手に取ってみた、古き良き素朴の地方の出会いを旅の随想としてまとめたもの。著者は3年間で17万km走る、とんでもない旅好き人間、仕事を兼ねてのドライブにしてもこの距離は半端ではない。力みのない文体が飄々としていい味となっている。釣り紀行をたくさん書いている人。
青木新門著『納棺夫日記』(桂書房1993/3)*映画「おくりびと」の原作、「みぞれの季節」「人の死いろいろ」「ひかりといのち」の3章構成、葬儀社に勤める主人公の体験が、北陸地方の風土や気候とともに語られる1〜2章の文章が瑞々しい。「青白く透き通ったトンボの体内いっぱいに卵がびっしり詰まっている」糸トンボのシーンは、美しいが糸トンボの生態とは違うような気がした。第3章の宗教と<ひかり>の考察はあまりに観念的でついてゆけなかった。
肥田舜太郎著『広島の消えた日/増補新版』(影書房2010/3)*図書館で借りた旧版が良かったので、この増補新版を入手した。「広島陸軍病院にて」のサブタイトルがついた第1章が「破局に向かう日々」に変わり、「被爆者達の戦後」と題された増補論文が追加され、新たな章が加わったのと同じ分量になっているので、旧版をお持ちの方も、本書を入手する値打ちがある。内部被爆問題への言及は、今の福島第1原発事故の問題に直結している。ヒロシマナガサキ・フクシマは人類史の汚点である。
◎サリ・ソルデン著/ニキ・リンコ訳『片づけられない女たち』(WAV出版2000/5)*女性のADD(注意欠陥障害)についての啓蒙書、社会に刻印されているジェンダーゆえに発見が遅れ、過渡に苦しむ女性ADD患者の苦悩が見事に浮き彫りにされている。物心両面にわたり<片づける>ことの重大さがよく分かり、自分の周りを省みていたく反省した。
山下洋輔著『洋輔旅日記/山下洋輔エッセイコレクション2』(晶文社1998/10)*ジャズピアニスト山下洋輔のエッセイが好きなので、書いている本人が一番愉しんでいるのではないかと思えるドタバタ調紀行文がまとめられており、ファンには堪らない。ギャグの精神がこれほど満ちあふれた文体も珍しいが、背後には鋭く的確な観察力と、彼のピアノタッチのように自在な日本語力がある。読んで愉しいと思う頃にはすっかりハマッてしまっている。
◎中山七里著『さよならドビュッシー』(宝島社2010/1)*遺産ミステリィの骨格にピアノコンクールに挑戦する女子高生音楽根性ものを絡めた娯楽小説、演奏場面の描写に過剰なほどの情熱が注がれており、そこが本書の読みどころ。コンクールシーンの盛りあげ方も出色、書く喜びが文章に色濃く反映していて読むのが愉しかった。