武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 3月第3週に手にした本(12〜18)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

小泉和子著『ちゃぶ台の昭和』(河出書房新社2002/11)*食卓に焦点をあてて昭和の食の歴史をビジュアルにまとめたもの。食生活に急激な変化をとげた昭和史を、改めて見つめ直すのは、愉しく有意義。個人経営の珍しい博物館「昭和のくらし博物館」の企画展がベースになっている。あらゆる点で、昭和は少しずつ遠くなりにけり、という感想をもった。
黒田恭一著『ぼくだけの音楽1、2』(主婦の友社1995/7)*テレビやラジオでの音楽解説を耳にして、話のうまい人だとは思っていたが、これほど文章のスタイリストだったとは、1人ひとり工夫を凝らした解説の冴えが眩しいほど。ジャンルを問わず、クラシックはもとより歌謡曲からジャズ、音楽に関わるあらゆる事象について、気付いたことを何でも語ろうという構え。根底に音楽への尽きない愛情が流れているのでつい引き込まれしまう。惜しい人を亡くした。少しずつ読んでゆこう。
永井荷風著『断腸亭日乗・六』(岩波書店1981/2)*長大な日記の昭和20年から27年の分が納められている巻、20年の連夜の空襲でついに自宅の偏奇館を焼失、敗戦に向かって物情騒然とした日々を過ごす荷風の日常生活を辿っていて、1年前の3・11震災を思い出した。文豪の息遣いのようなものが惻々と伝わって来る。日記文学の白眉である。
石毛直道著『食卓文明論/チャブ台はどこへ消えたか?』(中公叢書2005/4)*1章から3章までほぼ100ページを使って、食卓の民俗学的な記述の後、4章からがこの国の食卓文化史。4章が「チャブ台前史」、5章が「チャブ台の時代」、6章がチャブ台が消えた「現代の食卓」となっている。幅広く食卓に関わる事柄が取りあげられていて興味深かった。
渡辺実著『日本食生活史』(吉川弘文館1964/6)*この国の食生活史として良くまとまっていて図版も多く分かりやすい、紀元前から現代までバランス良く幅広く記述されている食生活史の格好の入門書。付録として付いているきちんとした索引は本の性質上、便利で助かる。
藤原定家著/今川文雄編訳『明月記抄』(河出書房新社1986/9)*この国の日記文学の最高傑作と名高い明月記は、気楽に読むわけにはゆかない。全文が漢文の恐ろしく読みにくい記録文学である。この国では長い間、漢文が男の記述用言語だったとは。本書は、訓読の抄録であり、これなら何とか読んでみようかという気になりで手にした。定家19歳から74歳までの生涯が克明にしるされて当時の公卿の生活が浮かんでくる。年のせいかこの頃、日記文学が妙に肌に馴染む。
◎スタンダアル著/大岡昇平訳『ハイドン』(創元社1941/5)*ここ数年、家で聴くCDはハイドンの作品が多い。何時聴いても心地よく、気分が爽やかに澄んでくる。と言う訳で、ハイドンに関する本を手にすることが増えた。本書は戦前に出た、大岡昇平訳の「有名なる作曲家ハイドンに関する手紙」の全訳、著作権上も道義的にも大いに問題があることと、スタンダールの処女出版という二つのエピソードが重なる問題の書ではあるが、ハイドン関連本として逸することのできない一冊、若き大岡昇平が情熱をこめてハイドン紹介につとめた記念の作品と受け止めたい。情熱的にハイドンを語った本としては最右翼に位置する一冊だろう。