武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

『石田徹也遺作集』(発行求龍堂)

toumeioj32006-12-16

 31歳で05年の5月になくなった石田徹也の画集だが、何度眺めても、言葉を失う。人前で見るにしのびないいほどの負の情感がどの絵からも暗くもやもやとわき上がる。いつも同じ焦点の定まらない男の顔が、視線を遠くに投げているばかり。ほぼ平行に伸びてゆく男の視線の先は、何も見ていないことを訴えているかのよう。しかも画面の色調は暗い。
 シュールレアリストの画家の絵に似たような印象の絵があるが、私生活の奥まったところから流れ出してくるような秘めやかな情感が、この国の若者の閉塞感を象徴しているようで何とも痛ましい。物と一体化したり、物の中に埋没したりしている悲しげな男の表情は、長く見ていられない。好かれる絵ではないかも知れないが、一度見たら忘れられなくなる絵だ。子どもに見せたら夢にでてきて怖がりそうな気がする。
 画集で見ていると、ダリのように細密に描かれた小さな絵だろうと思ったが、後ろのサイズの資料を見るとどれも幅1m以上もある大作ぞろい。この不気味な幻想的な自画像のような不思議な大作を、何枚も何枚も描いている室内を想像すると、背筋が寒くなる。狂気じみた天才と言わざるを得ない。
 この画集には、95点の作品が収められているが、生前作者自身が開設したサイトにも可なりの作品が、高画質で公開されている。次のアドレスをクリックして、是非見ていただきたい。現代の恐怖画集として推薦する。http://www.hirabayashiisamu.com/ishidatetsuya/ishida.html
 私としては画集もいいが、機会があったら是非、本物の作品を見てみたい。