武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

『スズキコージズキンの大魔法画集』 鈴木康司著 (発行平凡社)


 この素晴らしい画集の作者である鈴木康司さんは、絵本作家以外にも多彩な活動を繰り広げる、いわばマルチな造形作家と呼ぶしかないような多才なお人。今回は、そんなスズキコージとカタカナ読みするお方の、画家としての魅力を1冊に集めた魅力的な画集を紹介したい。
 この本の帯に「奇蹟的に発掘されたコージズキンワールド250点収録」とあるように、相当数のスズキコージさんの絵画作品が収録されている。絵本などの文字付の絵ではなく、絵それ自体として自立した作品群。色彩豊かで、あふれ出る夢のようなスズキコージの世界を堪能できる画集。
 一言で内容を紹介するのが困難なので、目次に沿って順番に内容を紹介してみよう。まず、PART1−HERE THERE & EVERYWHERE PAINTING!(こっちそっちあっちの絵)。このパートが、本書の平面作品の大半を占めており、そのスケールと作品数で、見る者を圧倒する。解説によれば、B1サイズに不透明水彩で描いた作品が先頭に配置されているらしいが、原画が何としても見たくなるような大迫力の作品群、その色彩と不思議なイメージの乱舞。親しみやすくて近寄りがたい不思議な形象たち。類をみないその画才に脱帽するしかない。
 その次に出てくるのが、円の中に描き込まれた<丸い絵>、1個や2個なら分からないでもないが、これだけの数をそろえられると正に壮観、異才ぶりがはっきりする。続いて<旅の絵>らしいが、どれをとってもスズキコージの世界、豊穣さに尽きることがないような溢れる才能、描けないことが一つもないようなその豊かさ。
 次は<得意技の白黒の絵>とスズキコージさんも言っているモノクロの世界。この人は色彩がなくなっても平気なんだと納得させられる、見事なイメージたち、個人的にはこの完成度の高いモノクロの作品群が一番印象強い。色彩に気が散らされない分、画家のビジュアルな才能が、そのまま画面に出ている。ただ見とれるばかり。その次が<頼まれもしないのに勝手に作った映画ポスター>、そして大量のコラージュ作品群、切り抜かれたちょっとしたイメージから広がったと思われる想像力のカーニバルとでも言おうか。
 最後は、<バリ島で作ったというろうけつ染め>作品群、よくあるろうけつ染めの概念から完全にはみ出す美しい布模様。ここまでがパート1、何度見ても見あきない。
 PART2−GRAND BIMBO ART!(巨大ビンボーアート)、平面作品から抜け出した多様な立体作品。段ボールの立体に描かれた造形作品、どうやらビンボウが豊かさ猥雑さのキーワードらしい。とにかく楽しい作品群。木箱、木盤、地球儀、ロボット、壺、扇、はりぼて、卵、お面などなど、遊び心満載の作品群。
 PART3−ZUKIN LIVE PAINTING!(ライブ・ペインティング)は、各地のイベントなどで見物人の前で描いてきた<ライブ・ペインティング>の作品群、作者にとってはライブ演奏のような位置づけなのか、パート1の平面作品と比べて見劣りのしない大作ぞろい、細部への集中力はさすがにやや欠けるものの絵の勢いはライブならではのもの。
 画集としての内容は、以上のパート1からパート3まで、後はおまけのような「巻頭エッセイ:サルビルサ!―永遠の問いにいざなわれて(佐野史郎)」と「インタビュー:押入れ型人工衛星から宇宙遊泳に出発!」が、前後についている。
 「巻末特別付録:長〜い絵巻物GYPSY ROAD」これは、非常に長い絵巻物、小さく縮小されすぎているので実感がわかない。せめてこの画集の縦の幅で付録にしてくれればよかったのに、残念。
 本の形に縮小されまとめられたものなので限界は当然あるが、スズキコージさんの才能と魅力は十分に堪能できるので、絵本などでスズキさんの絵が気に入ったことのある方には是非お勧めしたい。