武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 ベルギー王立美術館展印象記(国立西洋美術館)9月12〜12月10

toumeioj32006-11-22

 ブリュッセルにあるベルギー王立美術館にいったのは何年前になるか、確かオランダ、ベルギーと同時期に旅行したのだったが、旅行の何よりの楽しみが美術館探訪だった。その折の目玉だった王立美術館の名品が来るというので上野に行ってきた。
 予想していた以上にいいものが沢山見られて、満足した。<イカロスの墜落>がまさか上野で見られるとは、国内の展覧会は本当にありがたい。この程度の規模となると10年に一度、もしかすると数十年に一度の催しになるのではないか。自由に現地に行けるほどの資金がない庶民は、こういう機会を逸すべきではないと思っている。時間と労力をかけた大規模な企画となると50年〜100年に一度という大掛かりなものまである。来日する大物指揮者の場合も同じだが、少々高くても行けばよかったと長く後悔することになる。
 話を今回の展覧会に戻すが、18世紀ごろまでの絵画を見ていると、一枚の絵に集積された時間の厚みに圧倒される。構図の中に、時間の流れが折りたたまれ、多様な視覚からの映像がこれでもかというほど詰め込まれていると感じる。肖像画一枚にしても、カメラが切り取る一瞬の画像ではなく、長い時間をかけたゆるぎない観察の持続とでも言うべき時間の集積が見られる。画家の技量一つとっても並大抵の時間ではないだろう。そんな思いを抱きながら、たっぷりと豊かな時間を過ごさせてもらった展覧会だった。

 もう一つうれしかったのは、マグリットの大好きな<光の帝国>が来ていたこと。空には昼の時間、地上には夜の時間が描かれ、一枚の絵のから不思議に静まり返った沈黙の質感がこぼれ出てくる。よく言われるように画家の筆使いの痕を残さない緻密な絵筆により、透明感のあるイメージが全体を統一している。実物の前に立つと<静謐>という物質化した観念に触れられそうな錯覚すら覚えるほど。何時見ても見事な傑作。
 厚みのあるベルギー絵画をコンクトに見られる展覧会なので絵の好きな人には是非お薦めしたい。背後にあるベルギーという国の豊かさが実感できます。