武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『天国への道』白川道著 (幻冬舎文庫)

toumeioj32006-11-21

 400ページを越える分厚い文庫の(上)(中)(下)三巻、原稿用紙にして2000枚を凌駕する長編小説。かつてテレビドラマ化されたことがあるらしいが、数日間をたっぷり楽しませてくれる、ミステリー仕立ての恋愛小説。美男美女として設定された主人公が、特に個性的なわけではない。下巻の北方謙三さんの解説にあるようにあえて言えば一般的なヒーローおよびヒロイン像、繰り返し描写されるわりには具体的な像を結ばない。従って、人物設定では、どの登場人物もそれほどアクはない。
 何が読者の興味を引きとめるか改めて考えると、くっきりと組み立てられた筋立てというしかない。部分的には都合のいい筋運びもあるが、最後の美しい悲劇に向かって、グイグイをお話が進む。癖のない揺るがない文体でひたすらに起伏の大きなストーリーが展開する。日常の繊細な機微を丹念に描き込む隙のない物語も楽しいが、このお話はいささか趣を異にする。すべての描写がストーリーを推進することに奉仕していると感じるほど先へ先へとお話が展開する。直球勝負の豪腕ピッチャーに例えたいの物語作り。
 あえて、登場人物の1人を挙げるとするなら、最後まで主人公を真犯人として追及し続ける老刑事桑田則夫、この人物が最大のこの物語の推進役、メインエンジンの役割を担う人物だが、この人物像は印象に強く残った。
 私はあまり気を散らすことなく、珍しく一気にこの3巻の物語を読みきった。この先がどうなるか、それだけが気になって、多分こうなるだろうと予測したのとほとんど違わない終わりになるまで、ついつい読まされてしまった。少し疲労感がのこったが、読んでいる間たっぷり楽しんだので、同じ作者のものをまた読んでみようという気になった。類稀な現代のメロドラマをお読みになりたい方、是非お薦めします。