武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『お鍋にスカートはかせておいしさ大発見』 小林寛著 (カッパバックス)

toumeioj32006-10-30

 魚塚仁之助さんの「清貧の食卓」に紹介されていた「はかせ鍋」と小林寛さんのこの本にすっかりお世話になっている。著者は大學の工学の先生らしく、日常的な常識に支配されがちな調理について、分かりやすく理屈っぽく、しかも科学的にアプローチするところが、何ともいえず面白い。
 おかげでさっそく「はかせ鍋」20cmをネットショッピングで購入、活用している。保温鍋を使う料理法にいろんなネーミングがあるようだが、「保温料理法」も「適温調理」のいずれもその原理をよく表したいいネーミング。同じような発想で「真空調理法」というのもある。いずれも調理の過程で、加熱が調理にどうかかわるかを理解したうえでの、これまでになかった調理法。
 この本を読んで、ぐつぐつ沸騰させるのが調理における加熱だとばかり思い込んでいた以前の思い込みを見事に覆してもらって、心から感謝している。ステンレス多層構造鍋、はかせ鍋、圧力鍋、この3種類の鍋を素材と料理法によって使い分けて、加熱が必要な料理を楽しんでいる。自分で作ってみて著者の主張が100%味に反映するとまでは思わないが、いくつか間違いなく本書の通りだと思えることがあるので列挙してみよう。
 ①まず、このはかせ鍋などの保温効果を利用する調理法は、経済的だという指摘、これは全く同感。火を使うときはタイマーを使うようにしているが、沸騰するまでの時間が短縮され、そこで火を止めてしまうのでガスの使用時間がかなり短縮される。保温のプロセスにはいったらもう焦げ付く心配もないので、完全にほかの事をやっていても大丈夫。精神的にも省エネになる。この鍋を愛用する第一の理由。
 ②本書では、この調理法だと飛躍的に美味しくなるといっているが、これには好み嗜好の主観的な面がかかわるので、一概にそうとも言えないような気がする。素材によっては歯ごたえがしっかり残せたり、適度な加熱ですむので香りがよく出来たり、いろいろな工夫が出来るようになって重宝な点は確かにある。私の鍋使用頻度では、この「はかせ鍋」を一番よく使っている。保温状態にしておいて、安心して本が読めるというのが<ながら料理>の強み。味は食べてみないと分からないので、期待通りにいかないこともよくある。
 ③蒸し物の料理も、沸騰し続けていなくても出来るという指摘に感心した。沸騰させて水蒸気ね熱で料理するのが蒸し物だとばかり思っていたが、適温で調理すると言う発想からすると、保温過程の鍋の中でも水蒸気の加熱はできるということ。おかげで高熱の水蒸気による蒸しすぎの心配がいらなくなった。ほったらかしておいて丁度いい蒸しができると言うのは有難い。生鮮野菜を蒸した温サラダは、ドレッシングがいらないと思えるほどに美味しい。この本では<保温蒸し>といっている。
 気持ちいいほどこれまで料理の常識と思われていたことに疑問をもち、納得できる推論や仮説の元に、新しい原理を手繰り寄せてくるので、読み物としても楽しい。気分転換の方法として、趣味として時々料理をなさる方、きっと何かの参考になります。食事を作る時間もないという方は、こんな本を読んでいる暇もないはずだから、無理と言うもの。料理をやりたい怠け者にお勧めかな。