武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『サラリーマン野宿旅』 蓑上誠一著(発行八月舎)

toumeioj32006-09-03

 <野宿>というキーワードが好きで、若かった頃、何度かオートバイに乗って実践したことがある。今でも機会があれば、またやってもいいという気もするが、自分でやるよりも他人の体験談のほうが面白く、実行は先延ばしになっている。ネット上のサイトにも、面白い野宿サイトがあり、暇な時に訪問することにしている。
 気に入っていたサイト「峠と旅」http://www.geocities.jp/wellon2/tohge/tohge.htmが、本にまとまったようなので購入して読んでみた。内容は、「峠と旅」とほとんど同じ、サイトをそのまま編集して本にしたというものだが、モニターを通して読むのと、本の形になったものを寝転がったりして読むのと、味わいが違う。本の方も別の雰囲気で楽しく読めたので、お薦めすることにした。まず、目次を引用する。

野宿旅とは
野宿道具
野宿の実例
  峠の野宿35 国道の旧道脇で野宿38 誰もいないキャンプ場で野宿41
  するには努力がいる浜辺の野宿46 便利だがうるさい国道脇で野宿48
  子供の遊びの様な野宿54 雨の降る日は、屋根の下で58
  慣れないオートキャンプ場で、思わぬ災難野宿65 山小屋で野宿74
  小雨降る池のほとりで、しみじみ野宿81 天生峠下の野宿88
  体調不良の林道脇野宿96
休暇
キャンプ場
  学生がはしゃぎ回る116 夜中に暴走族118 オバタリアンの野外カラオケ120
  駐車料金まで取られる121 国設野営場は大混雑123
惨めで悲惨な車内泊
車のトラブル
野宿の夜の災難
  雨の巻テントの中は水浸し 148 風の巻振り向くと、そこにテントはもうなかった155
  雷の巻この恐怖は言いようがない 162
野宿の夜にテントの中で一人で過ごす方法
旅の小道具
旅の食事
焚き火の楽しみ
生理現象
  惨劇(そのI)見ず知らずの薬屋さんの自宅の中へお邪魔します211
  惨劇(その二)住宅街の民家の軒先で失礼215 惨劇(その三)もうどうにも止まらない221
  野外での正しい済ませ方228
旅で出くわす動物
野宿のクマ対策
旅の途中で思うこと
おわりに

 この目次をご覧になってお分かりのように、内容のメインは、<野宿の実例><野宿の夜の災難><生理現象>この三本。やはり、<野宿の実例>に一番力が入っている。だが、私が面白かったのは<生理現象>、著者には申し訳ないが、下痢に見舞われてあたふたするところが、他人の不幸=蜜の味の通例どおり、哀愁があって笑えて何とか解決にこぎつけてホッとするところが何ともいえない。
 記述の端々をつなぎ合わせると、著者はご両親と同居している所謂パラサイトのシングルらしく、常識で考えて何を好んでこのような侘しい旅行術を身に付けなければならなかったのかと、不思議な気もするが、貧乏旅行にはやった人でなければ分からないような、アリ地獄に落ち込んで甘美に足掻く喜びのような不思議な味わいがあるのも事実。
 この国の人を限りなく怠惰にしてしまいそうな豊かさの中で、こんな旅も一つの世間にチト背を向けた、変わり者の楽しみ方と言えよう。自転車やオートバイによる野宿旅が無理だという方には、ひょっとして実践的なマニュアルとして使えるかもしれない。こんな旅の姿も案外楽しいかもしれないと思うので、子育て前か子育ての済んだ心に若者の気分を残している方に、是非お薦めしたい。
 子連れで野宿などすると、きっと、一生恨まれかねないので、くれぐれもやってみようなどという気持ちにならないように、ご忠告しておく。