武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 インドツアーこぼれ話(観光バス)


 食事と花々を追加して、インド旅行の話を終わりにしようと思っていたが、どなたも書いていらっしゃらないようなので、インドで体験した観光バスのことについて記しておこう。
(1)まず吃驚したのは、運転席と客席ががっちりした窓枠で、きっちりと仕切られていたこと。ドアが付いていて行き来は出来るものの、ハッキリと区別されていて、運転席側にはエアコンはなかった。乗客と、運転手や車掌などの働いている者が、別世界のように分けられていた。長距離を移動するための観光バスは2台ともそうだった。 (画像は運転席と客席と区切るガラスの仕切、真ん中にドアが付いている)
 近距離を移動するバスには、この仕切はなかった。つまりは冷房は効かないということらしかった。カースト制度の一端を覗いた気がした。
(2)窓枠の主要な柱は、厚みのある鋼鉄の支柱だった。あるガイドは日本の車はエンジンは素晴らしいが、車体がヤワだといっていた。田舎に差し掛かると物凄い凸凹道なので、軽量化を追求した日本車のボディーでは長持ちしないのかもしれない。下回りのサスペンションも硬めで、田舎道を走るときの衝撃が凄い。口の悪い人はロデオみたいだと言っていた。後ろの座席に乗っていると、完全に身体が浮き上がってしまい、座席に着地するときのショックがきつい。現地の人は薄いクッションのシートに鈴なりの200%乗車率で平然と走っている。鍛え方の違いを痛感した。
(3)運転マナーが全く違う。クラクションの騒音規制は全くなく、必要と感じたら使い放題、道が悪いのですべての道路利用者、乗用車、トラック、バス、自転車、オートリクシャ、自転車リクシャ、トラクタ−、荷馬車、歩行者、牛、山羊などが、舗装が比較的残ってる道路の真ん中を使おうとする。しかも一車線の対面交通でほとんど信号なし。大型のトラックやバスがすれ違うときなど、毎回度胸一発のチキンレースもどき、出来るだけ真ん中を走って、互いにタイミング良くぶつかる寸前にハンドルをきってかわし合う。やがて少し慣れたが、初めて見たときは規則でもないのにすぐシートベルトを捜して締めた。いつの間にかバスの乗客の大半が言われもしないのにシートベルトを締めていた。
(4)国道の幹線道路クラスの道でも、田舎の村に入ると真ん中に牛が寝ていることがある。何頭もの<聖なる牛たち>が楽しげに語らいながら路上に佇んでいることもある。激しくクラクションを鳴らすと、クラクションの意味がわかるのか、ゆっくりと巨体が移動して行く。インドの観光バスは、路上にあるあらゆる障害物を巧みにかわしながら、必要以上には決してスピードを落としたりせず猛然と走り続ける。インドでは多くの生き物がいろんな場面において間一髪で生をしのいでいる。
(5)インドの運転手は、抜かれるのが大嫌い。全員がそうかどうかは分からないが、私たちが乗ったあるバスは、物凄い悪路で3回もの抜きつ抜かれつのカーチェイスをやってのけた。私は観光バス同士のカーチェイスは、見るのも実体験するのも初めてだったので、これは映画のワンカットに使えるなと思ったほど。あまり性能の良い動力系ではないので、追いかけるときは床を踏み抜かんばかりのフルスロットル、ドライブシャフトが悲鳴を上げるのが床下から聞こえていた。ある人は、ジェットコースター顔負けのスリルだったと顔を引きつらせて話していた。インドは観光バスも凄い。
(6)心配になって現地ガイドにインドの交通事故について聞いたら、インドでは事故はほとんどないとかわされた。窓の外を見ていたら、お腹をみせてひっくり返ったトラック、ボンネットがグシャグシャになった乗用車、前が潰れたバイクなどを何度も見た。あれを、インドでは交通事故と呼ばないのかもしれないと思って前のシートを握りしめていたが、何時間かするとだんだん慣れた。インドでは保険に入っていない人は観光バスに乗るべきではない。
(追伸)ネットで調べてみたら、「昨年1年間の交通事故死者数が13万人を記録したインドでは、9万人以下に減った中国を抜いて、世界最悪の道路事情の国」になったという記事をみつけた。交通事故死者数が世界一の国だったのでした。この情報を知っていたら、ドライバーさんにゆっくり走りましょうよと、全員で忠告していたことだろう。知ったのが帰国してからで幸いだった(苦笑・冷汗)。
(追伸の訂正)上記の記事に間違いがあるようなので、以下の引用をもって訂正します。年間交通事故死者数は13万人ではなく10万5千人のようです。

【インド】交通事故死者世界第1位:WHO報告/09/08/17 /インド新聞
 17日付のビジネス・スタンダード紙(4面)によると、世界保健機構(WHO)が発表した道路の安全に関する統計情報で、インドは交通事故死者数が年間10万5千人となり、世界最多となった。この情報は、2006年のデータに基づくもので、世界178カ国で調査し、世界人口の98%を網羅している。インドではこのほか、200万人が交通事故に起因する身体障害を抱えているという。死亡者数2位は中国の9万6千人、3位は米国の4万2千人となっている。