武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 6月第5週に手にした本(27〜3)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)
篠田一士編『美食文学大全』(新潮社1979/6)*食べ物を主題にした随筆や文学作品の秀作を選りすぐったアンソロジー、編者の視野の広さとガッシリした文学観が選び出したラインナップが面白い。プルーストスタインベック、フローベル、トーマス・マンガルシア・マルケスベンヤミン等の食物譚がならぶと言う豪華な布陣、日本人作家の顔ぶれもなかなか面白い。
辻邦生編『地図を夢見る』(新潮社1979/12)*旅を夢見ることをテーマにしたエッセイ集、旅行記あり古地図趣味あり、自然観察あり、何らかの事情で旅に出たくても出られない時、旅心を慰めるためのよすがにと編まれた本、読み始めると旅心がシクシク疼いてくる。
野田知佑著『カヌー式生活』(文藝春秋1999/8)*私はこの著者のカヌーの話が大好き、期待に違わず、カヌー乗りの視点からの文明批評に気分が洗われる気がした。きびきびした行動する人の、野性味溢れる文体が素晴らしい。天性のナチュラリストだ。豪快に動き回りながら考えているところがこの人のユニークなところ、動かないで考えているだけの人には真似の出来ない厳しくも美しい世界が拡がる。
◎藤正巌著『脅威の医療機械/マイクロマシン―医療を変える超小型機械の出現』(ブルーバックス1990/6)*技術を重視する医学博士のマイクロマシンへの夢、ナノテクを駆使するイーガンらのSF小説よりも面白かったというのは褒め過ぎか、とにかくメカニズムを小型化することから生じる課題とメリットを熱を込めて語る語り口が素晴らしい。20年前の古書なので、最新情報をベースにした改訂版を是非読みたい。啓蒙的な科学読み物の良書である。マイクロマシンへの夢を共有したくなった。
◎上田秀人著『破斬/勘定吟味役異聞』(光文社時代小説文庫2005/8)*文庫書き下ろし時代小説の有望な作家と世評の高い上田秀人の主要シリーズ第1作目、江戸時代の政治経済を舞台にした剣豪小説。佐伯泰英を頂点とする文庫書き下ろし時代小説の活気は、この調子ではなかなか衰えそうにない。今後の展開で、飽きさせない工夫をどうするかがこれからの注目ポイント、堅実な娯楽読み物である。