武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 7月第1週に手にした本(4〜10)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

池澤夏樹編『世界文学全集/短編コレクション1』(河出書房新社2010/7)*長編小説の基本形は伝記もしくは年代記であり短編小説の基本形は事件だと言う編者の指摘に納得、数名のお気に入りの作家名を見て手に取ったが未知の作者との出会いが愉しい。短編は作家の表現水準のバロメーター。すっきりしたいい訳がそろっている。
常盤新平著『私の好きな時代小説』(晶文社2008/8)*池波正太郎の文庫に付けられた著者の解説らしくない解説が好きだったので本書を手にした。時代小説を巡る随想といえばそれまでだが、ほとんど既読なのに、何故かもう一度読み返したくなる。気に入ったものを愛着をこめて捉え返す手並みが粋で何とも言えず気持ち良い。
◎岡庭昇著『性的身体/「破調」と「歪み」の文学史をめぐって』(毎日新聞社2002/6)*系統的にではなく感覚的に接近を試みた近代文学史試論集。性的な視点から捉え返された身体論を軸にしたエッセイが本書の核になっている、その周辺に配置した短編エッセイもなかなか面白かった。
◎藤正巌著『見えない機械/細胞の構造とマイクロマシン』(オーム社1994/2)*この著者のマイクロマシンシリーズの3作目、生物を精緻な機械として見て行く、独特の発想が面白い。3章と4章の「生物の中のエンジン」「生物の外のエンジン」のくだりがハイライト、著者のマイクロマシン構想の原点がここにある。7章の「人工生命」で発想は限りなくSFの世界に近付き、読んでいてワクワクする。<鞭毛モーター>のエピソードに目を瞠った。良質の科学読み物である。
◎上田秀人著『熾火/勘定吟味役異聞(二) 』(光文社時代小説文庫2006/4)*シリーズ2作目、<正徳の治>と称される江戸中期の新井白石の幕政改革を軸に政治小説を骨格にした剣豪小説、2作目で一段とスケールを拡大し、吉原を舞台に陰謀が渦巻く。主人公やヒロインに新味はないものの、シリーズとしての展開の仕方はなかなか本格的、殺陣のシーンに新鮮さが加われば文句なしなのだが。
寺田博著『決定版百冊の時代小説』(文藝春秋1999/11)*著者は前書きで恣意的に選択したもので精選した100冊ではないと謙遜しているけれど、長年の時代小説を愛読して産まれた密度の高いベスト100である。特徴は、内容の紹介に精力を傾注していること、その一途なブックレビュー振りに好感が持てた。著者の時代小説好きがひしひしと伝わって来る好著。